俵万智(たわら・まち)/1962年、大阪府生まれ。第一歌集『サラダ記念日』はベストセラーとなり社会現象に。短歌の裾野を広げた創作活動により2021年度の朝日賞受賞。最新歌集は『アボカドの種』(撮影/写真映像部・東川哲也)

狙いすぎると媚びた芸

──「こんな瞬間、あるよな」と読者が共感する作品をつくるには、何を心がけたら?

俵:最初は「読者」をあまり気にしていません。まずは自分のこと、自分自身の瞬間を形に残したい、この動機がメインです。それが最終的に読者が人生のどこかで持った感情とシンクロしたら、うれしいですが。

ヒ:私の場合「自分が書きたいことを書く」というような「小説を書く」衝動はないんですね。小説を書きだしたのも、まず依頼ありきでしたし。創作への動機、衝動は本業の方たちには及ばないとは思うんです。なので「共感してほしい」「共感されたい」という下心よりも、素直に「お仕事をさせてもらおう」くらいの気持ちで書いています。ありがたいことに、そうやって書いていても小説の連載時からわりとすぐに反響があって、それがうれしくてまた次も書くというか、本も出せましたし、今に至っています。

俵:実は「NHK短歌」では指導する立場から「短歌は日記ではなく手紙です。読む人を意識して推敲(すいこう)しなくてはいけません」と言ったんです。でもその時、司会のヒコロヒーさんが、「ネタを作るときにあまりウケを狙いすぎると媚(こ)びた芸になる。でも我が道を行きすぎても独りよがりになる。塩梅(あんばい)が大事」とおっしゃったんです。「はっ」として、「その通りです……」と反省しました。

ヒ:いやいやそんな。ネタに関しては、そうです。まだまだ若輩者ですけど、塩梅、バランス感覚、それを培っていくことがプロには必要だと思うんです。

俵:ウケることや読者サービスばかりを狙っていてはやせ細っていく。芸も短歌も、基本は同じ。両方の感覚を持つことが大事ですよね。

ヒ:創作、全般ですよね。創作で食べていくことに通じるかもしれないですね。

(構成/編集部・工藤早春)

AERA 2024年7月1日号

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