歌人・俵万智と芸人・ヒコロヒー。初めてだという二人の対談は、互いの作品を手にしたきっかけや心が動かされた一節の話から、歌人と芸人に共通する創作の苦労まで、深く濃く展開した。AERA2024年7月1日号より。
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1987年のベストセラー『サラダ記念日』から最新歌集『アボカドの種』まで、女性の恋心を短歌に詠んできた歌人の俵万智さんと、今年上梓(じょうし)した恋愛小説集『黙って喋(しゃべ)って』が版を重ね、作家としての評価も急上昇中のヒコロヒーさんが初対談した。
──俵さんは『黙って喋って』を各紙の書評で絶賛し評判になりました。どのような経緯で本を手に取られたんですか。
俵万智(以下、俵):ヒコロヒーさんと仕事でご一緒することになり、読んでみようと思ったのがそもそもの動機ですが、読み終わった後「これはすごい本だ」と思って。誰かとこの本について語り合いたいと思っていたら、共同通信の記者さんから「(『黙って喋って』を)ぜひ書評してくれ」と依頼があって、「自分で買って、すでに読み終わっています」と喜んで引き受けました。自分で買って読み終えていた本の書評をしたのは初めてかも。
ヒコロヒー(以下、ヒ):そういう経緯だったんですね。俵さんには毎月膨大な書評依頼があると伺っています。にもかかわらず、買っていただいて、その上書評までしていただいて、本当にありがとうございます。
双方の意味兼ねた比喩
俵:私のXにもその書評をアップしたんです。そうしたら今までになく反響が大きくて、とても驚きました。
ヒ:「いいね」が4万ついたって聞きました。そのおかげでこの本が重版になって(笑)。俵さんの影響力あってのことだと思います。
俵:書評家の渡辺祐真(わたなべすけざね)さんも、私の書評を読んで『黙って喋って』を買って読んだそうです。「今年、芸人さんの書いた本を30冊くらい読んだけど、一番良かった」と言っていました。
ヒ:えー本当ですか! いいのかな……嬉しすぎます。
──俵さんがヒコロヒーさんの小説を「他の本とは違う、すごい」と思った点はどこですか。
俵:まず、心理描写がすごいと思いました。けっこう嫌な奴、ダメな奴も出てくるのに、描写に愛があるから嫌いになれない。むしろ魅力的に映ります。