反省を「芸」に復帰をする渡部建
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 不祥事を起こしたタレントが、その後でどのような道をたどるのかは、不祥事の大きさや性質によって変わってくる。軽いものであれば、世間に対して謝罪をした上でそのまま活動を継続することもある。

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 一方、やや大きいトラブルの場合には、一定の謹慎期間を経て復帰を果たす。問題を起こしたのが芸人であれば、復帰した後で共演する芸人仲間から不祥事ネタでイジられることもある。

 さらに言えば、大きな犯罪や深刻な反社会的行為の場合には、復帰ができずにそのまま引退してしまう場合もある。

 その点、渡部のケースはこれまでにない珍しいものだ。一発退場してもおかしくないほどの強烈なインパクトを残す問題を起こしたにもかかわらず、彼は引退せずに復帰をするといういばらの道を選んだ。

「反省」という芸能活動

 当然、世間からの反発の声はあるし、メディア側からの抵抗感も強い。ローカル局のレギュラー番組である『白黒アンジャッシュ』(千葉テレビ)から復帰を果たし、YouTube、ラジオ番組、ウェブ系のメディアには少しずつ出ているものの、地上波テレビにはいまだにほとんど出演できていない。

 不祥事の内容が多くの人に生理的嫌悪感を抱かせるようなものだったため、彼には「何食わぬ顔で復帰して今まで通りの感じで仕事をする」という道が絶たれていた。

 しかも、軽々しくイジれるような性質のことでもなかったため、「芸人仲間にイジってもらって禊(みそぎ)を済ませる」ということもできなかった。

 八方ふさがりの状態で復帰した彼が選んだのは「反省を中心にした芸能活動」という新しい形のものだった。とにかくどこでも神妙な態度をとり、反省しているそぶりを見せる。

 不祥事のことでどんなふうにイジられようとも、それを黙って受け入れて、全面的に乗っかってみせる。さらに、不祥事について反省するだけではなく、それ以前の自分のタレントとしての立ち振舞やポジショニングに対する反省も、何一つ包み隠さずに赤裸々に語る。今の渡部は、とにかく明るい安村のような裸タレントよりも裸になっている。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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