春から新生活が始まり、新しい職場や業務に配属された皆さんの中には、コミュニケーション能力の必要性を実感している人も多いのではないでしょうか。そんな方にぜひとも紹介したい書籍が『次につながる対話力「伝える」のプロがフリーランスで 30 年間やってきたこと』。TBS初の女性スポーツキャスターとして活躍後、大学教授や複数の企業での社外役員、さらには12の省庁で審議会の委員などを務める木場弘子さんが、これまでに培ってきた「伝わる」ためのコミュニケーション術を伝授する一冊です。
そもそも、コミュニケーション能力について「コミュ力は生まれ持った性格が大きい」や「内気な性格だからコミュ力には自信がない」など、ちょっとした誤解をしている人がいるかもしれません。しかし同書を読むと、コミュニケーション能力とは本人の意識ややり方次第でいかようにも高められるものだとわかります。
たとえば、木場さんが実践していることのひとつが、企業の方との対談などの場ではその企業のコーポレートカラーをファッションに取り入れるというもの。さらに、靴もヒールが高めのものと低めのものの2足を用意していくそうです。ツーショット写真で自分のほうが大きく堂々と写っていては申し訳ないため、現場で対談相手の身長を確認してどちらかを選ぶようにしているのだとか。こうした心遣いは相手に喜んでもらえるのはもちろん、互いの距離感を一気に縮める役目も果たします。身につけている服や小物ひとつでもコミュニケーションのツールにできるというよい例ではないでしょうか。
また、対話をするのであれば、少しでも相手の心に爪痕を残したいもの。それには「自分だけのオリジナルな視点を盛り込むことが大切」(同書より)だといいます。
あるとき「ウクライナの関係や円安などで物価急上昇」のニュースを聞いた木場さんは、近所のショッピングモールでランチセットのパスタがいきなり値上がりしているのを確認します。また、おにぎり屋さんからはシャケマヨが消えており、これはウクライナの影響でロシア産のサケが高騰したからだと教えてもらったそうです。ここから穀物相場と企業の防衛策を考えたり、地政学と経済の関係性を知ったりすれば、ビジネスシーンでの会話に盛り込むこともできるかもしれません。
コミュニケーションのためのちょっとしたヒントは、日々の生活の中にも隠されています。「自分で稼いだ情報を仕事先での会話に入れると、何かの受け売りではなく正に脚で稼いだ情報として、評価される」「皆さんの話す内容のリアリティや説得力も大きく変わってくる」(同書より)と木場さんは記します。
このように、同書には木場さんがフリーランスの現場で30年以上培ってきたノウハウが満載です。コミュニケーションに本当に必要なのは小手先の話術などではなく、「しっかり伝えたい、きちんと受け止めたいという姿勢」(同書より)を持つこと。そしてそれこそが、ただの意見や情報の押し付けで終わらない、対話の先にある人間関係を築くことにつながっていくのだと感じさせられます。同書はコミュニケーション能力を高めたいすべての人にとって、有益かつ実践的な一冊となることでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]