12月31日から1月1日に日付が変わるだけのことなのですが、お正月はとにかくおめでたいもの。
最近、テレビの正月番組でも落語がよくかかっていますが、新春にちなんで、テレビではなかなか聞くことのできない、おめでたい噺(はなし)をご紹介しましょう。
── 今回は「御神酒徳利(おみきどっくり)」です。

神棚の御神酒徳利
神棚の御神酒徳利

大掃除、家宝がどこかに行ってしまった!

江戸時代、日本橋のある宿屋さんでは暮の煤払い(大掃除のこと)。
掃除の最中、通い番頭の善六さんは一対の徳利が台所に放り出してあるのを発見します。
これは将軍家から拝領した大切な家宝。誰かが持って行ってしまったら大変と、そばにあった水瓶のなかに徳利を沈めておきました。
さて、家の旦那様が神棚にお神酒をあげようと、徳利を探したところ、どこにも見つかりません。
なにか良くないことが起きる前触れではないかと、旦那様は青くなって、煤払いは中止。
自分が水瓶に隠したことなどすっかり忘れてしまっている善六さんでした。

おめでたい噺で晴れやかに!
おめでたい噺で晴れやかに!

デタラメ占いで、大喜び

うちに帰ってから善六さんは、自分が隠したことを思い出しました。
でもきまりが悪くて自分がやったことだとはとてもいえません。
ところで善六さんの女房のお父さんは占い師。女房がいうには、
「家に古い巻物がありました。そこには秘密の占いの方法が書いてありました」とごまかして
呪文を唱えて自分で見つけ出したら、いいじゃないか…。
そんなにうまくいくか知らんと、善六さん、宿屋に帰っていい加減な呪文を唱えて自分で徳利を水瓶から見つけ出しました。
旦那様はもう大喜び。お祝いの宴会が始まりました。善六さんもいい気になって酔っ払っています。
ところが、その時にこの宿屋に泊まっていた大坂の大商人・鴻池善右衛門の支配人。階下の宴会騒ぎを聞きつけたのでしょうか。
「お宅の番頭さんは占いの名人だそうだが、家のご主人の娘さんの病気を見舞ってやってくれないか。お礼は好きなだけ」というではありませんか。
今度青くなったのは善六さんの方です。もちろん占いなどデタラメなのですから。
でもまあ、行ってみるか。途中で逃げてしまおうか…。
この後、運命が味方して、旅の途中でももう一人を助けて、大坂の娘さんの病気も治ってしまいます。
ちょっとできすぎたようなところもありますが、とても気持ちのいい噺です。
昭和の大名人・六代目三遊亭圓生ほか、簡単な噺ではないと思いますが、今の噺家さんもいろいろと挑戦しています。その音源はYouTubeでも聞くことができます。
── お正月、おめでたい噺で晴れやかに一年を始めましょう。