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ハロルド・フライ(ジム・ブロードベント)は元同僚の女性から余命幾ばくもない、という手紙を受け取る。ハロルドは返事を書き、妻(ペネロープ・ウィルトン)に声をかけて郵便ポストへ向かう。だがそのまま800キロ離れたホスピスまで歩き出し──。累計600万部のベストセラー小説の映像化である「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」。原作者であり監督も務めたレイチェル・ジョイスさんに本作の見どころを聞いた。
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原作を書いたきっかけは夫から「病気に向き合う人々のためにウォーキングをしている人がいる」と聞いたことです。私の父が末期がんで闘病中で、父を失うことと向き合う意味もあったと思います。
ハロルドは元同僚の病を知り「自分が着くまで生きていて」と800キロの道のりを歩き始めます。彼はなぜ歩くのか? おそらくそれは「気づき」だと思います。彼は神を信じているわけではない。でも自分の足と体ですべてを体感しながら歩くことで何かが起こるかもしれない。未知の領域に踏み出さなければいけないという思いが彼を歩かせたのです。
本作で小説と映画は違う体験だと改めて感じました。小説では風景や人物を読者がそれぞれに想像してもらえるように描き、ある意味で自由度が高い。でも映画ではより世界をしっかり構築しないと信憑性が出ない。実際、本を書いている時、ハロルドの旅はすべて天気のよいイメージだったんです。でも撮影を観に行ったら「人生でこんなにずぶ濡れになったことはない!」というほどの悪天候でした。自分も英国人なのに何を考えていたんだ?って(笑)。そんななかで作品に力を注いでくれる俳優やスタッフに感動しましたし、このことは本作のテーマを忠実に再現していたと思います。歩く行為は自分ではコントロールできないものを受け入れることですから。
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ハロルドは旅でさまざまな人に出会います。故郷で医師だったのにいまは清掃の仕事にしか就けない移民女性、ドラッグをやめられない若者──彼らは現代のイギリスを表しています。ハロルドは新聞記事で読むだけだったら彼らを理解できなかったかもしれない。実際に会ったからこそ彼らを理解できた。それが私がこの物語で伝えたいことのひとつでもあるのです。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2024年6月10日号
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