米アップルはアジアでの研究開発拠点として横浜市を選んだ。市内に2カ所の拠点開設を予定するなかで、中心部に近い「みなとみらい地区」だけでなく、同じ横浜でも川崎に近い場所にある綱島(つなしま)に巨大研究施設の建設を進めている。ここは“おしゃれな沿線”として知られる東急東横線では、今も「昭和」の雰囲気を色濃く残すめずらしい街だ。地元では「まさか世界最先端のアップルがやって来るとは」と驚きを持って迎えられている。
アップルが綱島で建設を進める「綱島TDC(テクニカル・デベロップメント・センター)」は、東急東横線の綱島駅から川崎方面へ向かって徒歩10分ほどの場所にある。東京ドームのグラウンド面積と同規模となる1万2500平方メートルの敷地に、地上4階建ての施設1棟と地上1階建て施設1棟の計2棟を設ける計画だ。現在、2017年3月の完成に向けて、建物の杭打ち工事が行われている。
ここは、携帯電話などを製造していた松下通信工業(現パナソニックモバイルコミュニケーションズ)の大型工場だった。2011年に撤退したことで、甲子園球場並みの巨大な更地が出現した。地元では公立学校の建設を求める声が上がったが、土地を所有するパナソニックと野村不動産は、敷地全体を「エコタウン」として開発することで決定。ガスを中心としたエネルギーを活用するエコマンションや、大型ショッピングセンターの建設に加え、目玉としたのがアップルの研究施設だった。
「日本のシリコンバレーに、とまでは言わないが、横浜のシリコンバレーになってほしい」。地元の綱島地区連合自治会で会長をつとめる大谷宗弘さんは控え気味にこう話す。とはいえ、「アップルの進出を機に綱島は大きく発展するはず」と地元の期待は大きい。
綱島が位置する横浜市港北区は、東急東横線の日吉と綱島、大倉山の3駅の知名度が高く、東京と横浜の都心部からいずれも近いため、住宅地として根強い人気がある。
慶應義塾大学のキャンパスが置かれた日吉と、閑静な住宅地としての評価が定着する大倉山に挟まれた綱島は、人口こそ増え続けているが、街のイメージという面で見ると複雑だ。