東京・四谷のジャズ喫茶「いーぐる」の店主・後藤雅洋さんが、所蔵する1万枚ものアルバムの中からセレクトした"ジャズ喫茶定番"の500枚を紹介していく『厳選500 ジャズ喫茶の名盤』。

 

 グルーヴィー・ジャズ、リラックス・ジャズ、クール・ジャズ、コンテンポラリー・ジャズ、ビッグバンド・ジャズといったように、18のテーマのもと、それぞれオススメのアルバムの数々が紹介されていきます。



 500枚のなかには今年発表されたアルバムも。たとえば、10月30日から11月1日にかけて、ブルーノート東京にて圧巻の来日公演を果たしたばかりのテナー奏者、カマシ・ワシントンの『ザ・エピック』。このアルバムを後藤さんは次のように評します。



「一聴して頭に浮かんだのは70年代のロフト系音楽。理由はその黒っぽさ。具体的には重厚で骨太なカマシ・ワシントンのテナー・サウンドであり、そしてそれを彩るストリングス入りバック・コーラスもまた決して珍しいものではない。しかしそれらの組み合わせ方は明らかに斬新。コーラスが醸し出す気分も従来のブラック・ミュージックとはひと味違う」(本書より)



 また後藤さんは、近年の新しい傾向のジャズの特徴として、ドラマーの存在、リズムの進化に注目します。なかでも今年2月に行われた第87回アカデミー賞で最多受賞作品となった『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』にて音楽を担当したことでも知られるドラマー、アントニオ・サンチェスの演奏は"いまどきのジャズ"の特徴をもっともよく表していると指摘、次のように続けます。



「それはドラミングの精密化で、ひと昔前のスター、エルヴィン・ジョーンズなどのダイナミズムとは少しばかり肌触りの異なるドライヴ感を巧みに表現している。この『リズムの進化』が現代ジャズに極めて大きな影響を与えており、音楽全体の肌触りをドラマーがコントロールしているような演奏が多くなっている。要するにドラマーの存在が大きくクローズ・アップされているのは最近の傾向なのだ」(本書より)



 最新のジャズの動向までも射程にとらえた、ジャズ喫茶ならではの選曲の数々。

後藤さんは、ジャズの魅力のひとつとして、「聴き手の方から演奏世界に寄り添い、微妙な個性の違いを聴き分ける」(本書より)ところにその醍醐味があるといいます。本書で解説される聴きどころのポイントを参考にしながら、ジャズの世界に寄り添ってみるのもいいかもしれません。