『私だけの水槽』  松井玲奈 著

朝日新聞出版より発売中

 普段の活動を知っている人のエッセイを読むたび、腑に落ちる、という言葉を思い浮かべる。腑とはつまり内臓で、体の中心あたりにある臓器のことなわけだが、そこにすとんと落ちた納得のことを指す。たとえば私は松井玲奈さんを、アイドル時代から今の俳優・作家として活躍されている時代に至るまでずっと見ていて、そういう方のエッセイを読むと、なんだかすごく腑に落ちる感覚がある。――もちろん、私はテレビ越しや舞台越しにしか彼女のことを知らない。なのに、勝手にこちらが想像していた感覚と、文章で綴られている感情があまりにもぴたりと一致しているから、まったくもって勝手なことだが、「本当にそういう人だったんだなあ」と腑に落ちてしまうのだ。仕事に真摯で、ひとりが好きで、それでいて人間に対して愛情が深い、その軌跡が文章の表現にもくっきりと刻まれているのである。

 本書は、小説もエッセイもなんでも洒脱に綴る俳優・松井玲奈さんによる最新エッセイ集である。飼っているの話、芝居の話、三十歳という年齢の話、旅行の話、祖母が亡くなってしまった時の話……。芸能の世界で生きるひとりの女性が、日々の実感や悩みや趣味について飾らずに書いている。

 個人的な話になり大変恐縮なのだが、私は昔から松井玲奈さんの大ファンで、松井さんがきっかけで女性アイドルが好きになった。それまでとくにアイドルに興味がなかった私にとってYouTubeではじめて見た彼女の歌い踊る姿は衝撃だった。なぜかというと彼女は細くて白くて華奢な体でものすごい熱を放ちながら、生きる意味をアイドルソングの中で全身で表現していたからだ。それは決して難しい話ではなくて、単純にアイドルとして生きることがこの人にとっての表現なんだ、とYouTube越しですら分かるくらいのエネルギーだった。それは決して歌や踊りだけではなく、たとえばブログの一語や、総選挙やインタビューの一言にすら、隙なくちりばめられていた。――その熱量は、松井さんが俳優や作家になってからも、変わらなかった。俳優になって、彼女の姿を舞台やスクリーンやテレビドラマで見ることになっても、やっぱりその熱量は変わらず発されていた。そしてそれは、きっとこのエッセイを読んだ人にも伝わるだろう。「松井さんって本当にまじめで、熱量が高くて、隅々まで表現を怠らない人だなあ」と分かるだろう。

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