『ウソみたいな宇宙の話を大学の先生に解説してもらいました。』平松正顕,ナゾロジー 秀和システム
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 現代社会で生活していれば、"地球が丸くて自転している"ことは常識といっていいだろう。天動説が常識だった昔に比べれば、宇宙や地球について多くの事実がわかってきている。それでもなお宇宙に関しては謎や疑問が尽きず、天文学者を中心に研究が続けられている。

 今回ご紹介する『ウソみたいな宇宙の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)は、国立天文台 台長特別補佐などを務める平松正顕氏が、2020年以降に発表された宇宙に関する研究や論文について解説した一冊。興味深い話題が並ぶ中から、特に印象深かったものを紹介したい。

 まずは地球と月の関係にまつわる話題だ。地球には「磁場」が存在するが、月にもかつて磁場が存在していた。この磁場こそが太陽系で生きる生命にとっては非常に大切な役割を果たしているという。

 太陽の表面では「フレア」と呼ばれる爆発が盛んに発生している。フレアによって太陽系には「太陽風」と呼ばれる高エネルギーの粒子(=放射線)が拡散。しかし放射線は地球が持っている磁場によって方向が変化するため、地表に直撃することは避けられているのだ。

 さらに太陽風が地球の大気にぶつかってしまうと、大気が徐々にはぎとられて薄くなる可能性も。実際、火星に薄い大気しか存在しないのは、火星の磁場が消えたことで太陽風が大気をはぎ取ったのだと考えられている。

 一方で、現在の月には地球のような磁場はない。しかし月から持ち帰った岩石を調べた結果、かつての月には磁場があったことがわかっている。月にしっかりとした磁場があったのは40億~35億年前。地球で最初の生命が発生した時期と重なっている。当時は月と地球の距離も近かったため、地球と月の磁場は一体となって太陽風に対するバリアの役割を果たしていたという。

 月はゆっくりと地球から遠ざかっており、そのペースは毎年4cmほどと言われている。つまり1000年前の平安時代なら、月は現代より40mほど地球に近かったことになる。宇宙規模で考えれば微々たる距離かもしれない。しかし、かつての日本人が見ていた月が、現代人の見ているものと違うかもしれないと想像してみるのは楽しい。

 ちなみに地球と月の距離は、今後も遠ざかり続けるという。といっても、突然月が消えてなくなるわけではない。広がる距離は毎年4cmほど。少なくとも、現代人が生きている間に月が見えなくなる事態にはならないだろう。

 太陽についても興味深い説がある。太陽には双子の星が存在し、恐竜の絶滅に関係しているのではないかというものだ。

 恐竜の絶滅だけでなく、地球生命体はこれまでに5回の大量絶滅を経験している。大量絶滅に加えて、小規模ながら絶滅率が高まったタイミングについて調べた結果、原因についていくつかの説が挙げられている。そのうちの一つが「太陽系の近くを通った天体によって太陽系内の重力バランスが崩れ、大量の天体が惑星に降り注いだ」というものだ。この天体が、太陽の双子星「ネメシス」だと考えられている。

「生物の絶滅が周期的に繰り返されていることから、ネメシスが周期的に太陽に近づくことが大量絶滅の引き金を引いているのではないか、と考えられたのです」(同書より)

 今のところ、ネメシスの存在は仮説の域を出ていない。天文学者たちはネメシスと思しき星を探しているが、発見には至っていないという。数年後、あるいは数十年後に、太陽の双子星が発見されたというニュースが世界をにぎわせるかもしれない。

 ちなみに、宇宙においてひとりっ子の星は少数派なのだそうだ。双子や三つ子は珍しくなく、そうした天体は「連星」と呼ばれる。生まれたばかりの星を観察すると連星を成しているケースが多いそうなので、機会があれば双子や三つ子の星を探してみるのも面白いだろう。

 最後に、SF好きな方が興味をもちそうな話題を紹介しよう。映画やアニメなどに登場するスペースコロニーについてだ。

 現在の技術では打ち上げられる物資に限りがあるため、宇宙に人が生活できるほどの都市を建設するのは難しい。そこで出てきたのが、太陽系に浮かんでいる小惑星を利用できないかというアイデア。小惑星のなかにはとても脆いものがあるため、それを壊して再利用するというものだ。

 もちろん現段階では机上の空論にすぎないが、平松氏は破天荒なアイデアだと一笑に付すのではなく、こう続けている。

「ライト兄弟が初めて飛行機で空を飛んでから60年余りでアポロが月に行ったことを考えると、100年後には思ってもいない未来が実現している可能性も十分にあります。重要なのは、夢に向かって打ち込む人の情熱です」(同書より)

 同書で紹介している論文やアイデアなどは、もしかすると「ウソみたいな話」で終わってしまうものもあるかもしれない。同時に、現時点では想像もできなかった事実が発覚する可能性もある。

 我々が生きている間に、どこまで宇宙や地球についての謎が解明されるか。同書を読んで想像をふくらませてみてはいかがだろうか。