「むた」。キジトラの6歳、雌である(写真)。
お向かいのガラス屋さんの倉庫で、野良猫が5匹の子を産んだのが6年前。父親は当時この地域の大ボスで、顔も体も今の「むた」の2倍はあった。母親はきれいな顔立ちのキジトラ。子どもの世話はほとんど母猫がして、毎日子猫をくわえ、倉庫の1~2階を上り下りしていた。
ガラス屋さんのご主人が子猫をどうしようかと悩んでいたとき、まだ独身だった私の娘が2匹を猫好きの友人へ引き渡し、1匹をわが家で飼い始めた。それを機に残りの2匹ももらわれていき、娘が5匹の命の恩人ということになる。
さて「むた」は避妊手術後に性格が雄化して、親父ゆずりのやんちゃ娘になった。あるとき、近所の大きな雄猫にケガをさせたら、その直後、父猫に背中に穴があくほどかみつかれ、1カ月ほど家にひきこもった。きっと娘のやんちゃを親父がいさめたのだろう。
その父猫も、もう近所では見かけない。そういえば姿を隠す前、庭の草むらにうずくまり、じっと娘のすむわが家を見ていた。
「むた」は人の膝に乗らない。抱かれるのも嫌い。それでいて玄関に来る客にはすり寄る。おかしな人気者である。
朝から夜まで家にいなくても、夜中の12時前には必ず帰ってくる。これを主人の私は「むたのシンデレラリバティ」と言っている。
「むた」は6年間、一度たりとも夜、家をあけたことがない。一度だけ12時をまわっても見当たらない日があったが、翌日、家の押し入れの中で鳴いていた。
わが家で唯一猫嫌いだった88歳の母にも、母の老いに寄り添うように、最近では時々すり寄っていく。
「むた」を見ていると、やはり猫って「幸せ」の化身なんだと思う。
(白井善夫さん 静岡県/64歳/無職)
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