「『ジェンダーレス』や『多様な性に配慮した』ことをアピールしすぎると、当事者が恩着せがましく感じたり、着づらくなったりと逆効果になりかねませんし、見栄えや着心地を犠牲にしてしまうことも考えられます。重要なのは、制服を着用するすべての生徒にとって精神的な負担がかからないよう、さりげなく配慮されていることだと考えています。『着心地・見栄えの良さを両立したパターン設計とデザイン性』『アイテムの自由選択制』『強制カミングアウトしない環境づくり』の3点にポイントを置きながら、制服の提案を心掛けています」
実際、スラックスとスカートの選択を可能にしている学校でスラックスを選ぶ女子生徒の多くは、寒さ対策やはきやすさを理由にしている。
一方、制服そのものの見直しを求める声もある。21年には、現役の公立高校教員や高校生らが、制服と私服の選択制を求める要望書と1万8千筆超のネット署名を文部科学省に提出した。山崎高校のようにキュロットの制服を導入する学校は少しずつ増えているが、そうした取り組みを伝えるニュース記事に対しても、SNSなどでは「制服の意味を見失っている」「ならば私服でいいのでは」との投稿が多くみられた。
前出の桜井教授は、ジェンダーレス制服の取り組みを「残念ながらうわべだけのリベラリズム」としてこう話す。
「ジェンダーレス制服は管理・規律の中で選択肢をつくっているだけともいえます。子ども食堂が増えたことを喜ばしいと言えないのと同様に、手放しで称賛するのは違和感があります。自由に人間らしく生きるために、そもそも制服は必要なのか。子どもの自死が過去最悪の状況になっている今、教育現場、ひいては社会全体のあり方が本当にこれでいいのか、制服制度も含めて考えるときだと思います」
■制服はTPOを守る
一方、制服の役割としてしばしば言及されるのが経済格差による「スクールカースト」の発生を防ぐことだ。制服は決して安価ではなく、ファストファッションを活用すれば制服よりもリーズナブルに学生生活を送ることも可能だろう。それでも、山崎高校の武田由哉校長は「生徒一人一人が自分で考えて自由に服を選び、学校生活を送ることが最終の形」としつつ、言う。