中学校の放課後の教室
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 教育現場には仕事と子育てが両立できていない実態がある。産休中もこっそり働かなければならない教員、妊娠時期を指示される教師。それぞれの悔しさや絶望を、『何が教師を壊すのか』(朝日新書)から一部を抜粋して解説する。

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 産休中も生徒にばれないように出勤

 「いつから産休に入るの?」

 関東地方の公立中学校の30代女性教諭は、教務主任からそう聞かれて驚いた。

 産休はもう2日後に迫っていたからだ。

 校長に伝えていた予定が、立場のある教員にすら伝わっていない。

 「今週からですけど」

 答えると、主任も驚いた。

 数年前の年度末のことだった。2人目の子の出産予定日は2カ月後に迫っていた。

 校長に妊娠を伝えたのは前年の夏。だが、担当する授業を受け持つ代わりの先生が見つからないまま、時間が経っていった。産休などの代替教員候補者のリストは、教育委員会が毎春に更新して順番に声をかけていく仕組み。年度末になると候補が尽きて新たに探さなければならず、見つかりにくい傾向がある。

 校長に聞いても、「いま探している」と繰り返すばかり。次が決まるまでは、他の教員に発表しない方針のようだった。

 「俺が授業するかもしれない」と、冗談とも本気ともつかないようなことも言われた。担当する授業を誰に引き継げばよいかもわからないまま、日に日におなかが大きくなっていく。

 引き継ぎ先がいないことで、女性はやがて、最終手段をとらざるを得なくなる。それは、産休中に出勤し、こっそり仕事をすることだった。

 女性はこのころ、1日に5コマほど授業し、空き時間に授業準備や採点、会計などの事務作業をこなしていた。運動部の副顧問も担っていた。

 1人目の子の保育園の迎えがあり、午後6時に学校を出ないと間に合わない。部活の練習は基本的には主顧問が担当していたが、生徒にけがやトラブルがあれば対応しなければならない。放課後に生徒同士のけんかがあって相談を受けたのに、解決しないまま学校を離れざるを得ないこともあった。「死ぬ気でやらないと終わらない。毎日が勝負だった」という。

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引き継げないなら、自分でやるしかない