坂本さんはいつも取材者がほしがる話を察して、提供してくれる。この話は見出しになる? ページ分話は足りてる?と、よく確認された。

 大貫妙子さんとコラボレーションしたアルバム「UTAU」のレコーディングも取材した。札幌の芸森スタジオだった。二人は20代からの盟友。大貫さんは心のこもった追悼のコメントもつづっている。「UTAU」は二人の既存の作品などから大貫さんが選曲。坂本さんのピアノとともに水彩画のような声で歌っている。

「もっと孤独に」
「宇宙空間にぽーんと放り出された気持ちで」

 大貫さんのリクエストが、坂本さんは新鮮だったという。自分が書いた曲でも新しい風景を見ることができたそうだ。

「美貌の青空」「風の道」などをレコーディングしたが、坂本さんのピアノは伴奏というよりも、歌。スタジオに二人の歌い手がいるように感じた。

 坂本さんの生演奏はもう体験できない。新曲も聴けない。リスナーとしてとてつもなくつらい。
(音楽ライター・神舘和典)

週刊朝日  2023年4月21日号の記事より抜粋

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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