美容院に行けば美容師が髪を切りながらニーサの話をしてくる。カフェで本を読んでいれば隣の席から「イデコがね」と話が聞こえてくる。書店に行けば小学生が読めるお金の本が平積みになっている。今どき投資をしないほうが「お金を無駄遣いしている」気分にさせられる時代だ。若い世代ほどお金を運用しているし、老後が遠い若い人ほど国をあてにせず自己責任で生きる決意をしている。

 それは日本が貧しくなっているからだと私は思っていた。経済が低迷し、収入が上がる要素が少なく、年金システムが崩壊しつつあるからだと考えていた。ところが、手取り年収500万円の30歳の韓国人女性の強い不安を知り実感するのは、私たちが将来に不安を感じるのは「貯金がいくらあるか」の問題ではなく、ストレートに政治への不信であるということだ。政治に守ってもらえないから、私たちは未来が怖い。

先日、行われた衆議院補欠選挙では、3つの選挙区全てで立憲民主党の候補者が当選した。唯一自民党が候補をたてた島根1区でも自民党候補者が完敗したことは、やはり今の政治への意思表明だろう。それでも、衝撃の投票率の低さは、どう考えたらよいのだろう。長崎3区の投票率は35.45%で過去最低である。東京15区もたったの40.70%で過去最低。当選した立憲民主党の酒井菜摘さんの4万9476票は、前回の衆議院選挙で落選した井戸まさえさんが取った5万8978票よりも低い。自民党との一騎打ちで盛りあがったとされる島根1区でも過去最低の54.62%である。

 2009年に民主党が圧勝した衆議院選挙の投票率は69.28%だった。15年前、この国では政治に怒り、政治を変えたいと思う有権者が7割近くいたのだ。そういう意味で今回の結果は、立憲は自民に勝ったのではなく、自民と同様に「負けた」のかもしれない。有権者の心を掴みきれず、期待もされなかった野党として。

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ばかにするなよ有権者を