日本でもよくあるタイプの、簡素でアナログなつくりの地域情報誌。その「売ります」欄に並んだ出品物、ではなく、出品者の「人生」のほうを覗いてみたい──映画の脚本の執筆に行き詰まった著者の衝動的な行動から生まれた、奇跡のように美しいフォト・インタビュー集だ。
 生活保護を受けつつ60代後半にして性転換に挑戦している者。知らない人の遺した大量のアルバムをつい引き取ってしまった者。足首につけられた監視用GPS装置を見せながら延々としゃべり続ける者。ネット中毒気味だった著者は当初こそ無邪気に興奮するも、そこに横溢する過剰なまでの生活のてざわりと、剥きだしの人生の輪郭に、ほどなくして打ちのめされることになる。それは圧倒的な「他者性」と言い換えてもいい。
 パソコンのディスプレイにはけっして映らない境界線を何度もまたいだ著者は、他者のなんたるかを実感することで自分自身を取り戻し、やがてこの世界の広さと重さをほんとうの意味で思い知る。物語が輝く瞬間は、いつだってそこにある。

週刊朝日 2015年11月27日号

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