TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は演劇「『GOOD』-善き人-」について。
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盟友の劇作家・長塚圭史からラインが来た。
「こんどはかなりハードなやつです」
彼が演出を手がけるのは「『GOOD』-善き人-」(C・P テイラー:作、浦辺千鶴:翻訳)だという。主人公は先の大戦で雰囲気に流されるままナチスに協力、親衛隊に入り、ユダヤ人虐殺に加担した大学教授ハルダー。演者は佐藤隆太。愛嬌があり、一点の曇りもない優しい笑顔の俳優だ。長塚の演出でその佐藤が虐殺に手を貸す人物をどう演じるのか。興味を持ち、世田谷パブリックシアターに出かけた。
ちょうどラジオドキュメンタリー「「福田村事件」~暴走する ことばの群れ」の仕上げの時期だった。関東大震災で流言飛語が飛び交い、ごく普通の人々が朝鮮人虐殺の加害者になった。図らずも虐殺に加わった主婦が成仏できず、百年経った今でも現地をさすらい、自らの罪を呟く構成とした。これは森達也監督映画「福田村事件」に触発されたもの。千葉県東葛飾郡福田村では朝鮮人と疑われた行商人一行が村人に鉈や竹槍で殺された。秘匿された事実を森さんがメガホンを取り、異例のヒット作となった。