最初は、緊張感から双方向の会話が成り立たず、質問に対して「はい」か「いいえ」の答えしか返ってきません。ですから、段階を踏んで様子を見ながら、さまざまな角度からアプローチをしていきます。
緊張感の強い最初の時期は、クローズドクエスチョン(「はい」または「いいえ」で答えられる簡単な質問)です。例えば、「今日は朝ごはん食べてきた?」「昨日はよく眠れたかな?」などです。反応を見ながら、今度はオープンクエスチョンで(「はい」または「いいえ」以外で答える質問)へと進めていきます。「何を食べてきたの?」「ちなみに何時に寝て何時に起きたの?」などですね。そこで「パンです」と返ってきたら、「へ〜。私も今日はパンだったよ」などと共感する言葉を続けます。そこから「パンは何パン?」などと少しずつ深掘りして行くか、横に展開して「パンには何をつけたの?」「パンと一緒だとどんな飲み物飲むの?」などと広げていったりします。
共通点や共感ポイントがあると、だんだんと「この人は親近感が湧くな」とか「一緒の部分があってうれしいな」という気持ちになって、心を開いてくれると、やがて双方向に会話が進んでいくようになります。
また、生徒の話を途中で遮ることはせずに、最後までとことん聞き切ることも心がけています。そうすることで信頼感が生まれます。頭ごなしに否定せず、まずは最後まで聞き切って、そこから「へ〜、〇〇くんはそう思うんだね。私はこう思うよ」と続けて、生徒とは違う私の意見も、しっかり伝えていきます。
自分の意見を大切にして人に伝えることで、「伝えていいんだよ」という意思表示をする。そして、相手の話を最後まで聞くことで、「相手の意見もしっかり受け止める」という姿勢を示す。こうすることで、コミュニケーションが少しずつスムーズにいくようになるのです。
これは、親子間でも全く同じです。なぜそれが言い切れるかというと、「お母さんに話をしても、聞いてくれない」「途中で否定するか遮られる」「お母さんの持っていきたい方向にもって行かれて自分の意見が通らなくなる」「だから言わない」と、多くの子どもたちに聞いてきたからです。幼い頃からそうされてきて、自分の意見を自分自身が分からなかったり、自分の意見を言う機会がなくて練習の機会を得られないまま、言語化する力がついていなかったり、ということもあるでしょう。