はっきり言って、この出来事以後、どのテレビ局も報道に対して神経質になったことは明らかである。そして、「政治的公平性」ということが、まるで当然のように叫ばれるようになった。
だが、政権を持続するためには国民から見て「不公平」と思えることをやらざるを得ないことも起き得る。
たとえば、憲法と自衛隊は明らかに矛盾している。憲法9条2項では、日本は戦力を保持せず、国の交戦権は認めないと明記していながら、自衛隊はいずれにも反している。この矛盾をどのように正すべきなのか。
また、1980年代までは非正規労働者がほとんどいなかったのに、現在では全従業員の4割にも達している。
さらに、男女格差、ジェンダーギャップは世界で116位、先進国では最低である。
こうした問題を厳しく追及するのがジャーナリズムの役割で、政権側が「政治的公平性」を押し付けるのは、「政権批判をやるな」ということであり、危険極まりない主張である。
ジャーナリズムは政権批判こそが果たすべき大きな役割なのだと私は考えている。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2023年4月14日号