クラシエ ホームプロダクツカンパニー ビューティケア研究所 庵地輝(あんち・あきら)/1989年生まれ、さいたま市出身。大学、大学院では化学系を研究。2015年に入社。工場で製造現場配属後、16年から現職。研究所の品質管理に携わる部署で分析業務に従事(撮影/写真映像部・上田泰世)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年4月22日号にはクラシエ ホームプロダクツカンパニー ビューティケア研究所 庵地輝さんが登場した。

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 シャンプーやボディソープといった製品の品質を分析している。人の肌に直接触れる製品だけに「安全に使えて当たり前」と思われがちだが、その信頼は研究員たちの高度な技術と徹底した分析に支えられている。

 原料のすべてが規格をクリアしているか。異物や不純物は含まれていないか。温度や湿度、光の影響で有効性や衛生面に問題が生じないか。ミクロな世界をのぞき込み、多岐にわたる項目をチェックしていく。

 近年、技術の進歩や知見の蓄積などもあり、求められる品質のレベルは向上している。品質に対する規制は強化され、消費者の目も厳しい。試作段階での問題や工場での製造トラブル、客からの問い合わせの対応では、原因究明にスピードが求められる。

「保管状況や使用場面などを推測し、どの機器を使ってどのような測定をするべきか戦略を立てる。こうすることで効率的に分析を進められます。できるだけ詳しい情報がほしいので、各部署の担当者との直接的なコミュニケーションも大切にしています」

 一つの分析機器を使うだけでは原因がわからないことも多い。複数の機器で測定したデータをパズルのように組み合わせ、ついに答えが出た時の達成感はひとしおだ。

 原因を明らかにすることが使命だが、それだけでは新しい知見は生まれない。

「原因がわかればマイナスはゼロになるかもしれませんがプラスにはなりません。その結果がさらに高い品質につながってはじめてプラスになったと言える。マイナスをプラスにまで持っていくのが、私の仕事だと思っています」

 原因を追究し、結果をフィードバックし続けることで、成分を見直すきっかけや品質管理体制の強化にもつなげている。

 実際の生体から出る頭皮の臭いやコンディショナー成分の毛髪への付き方、肌への成分の浸透度合いなどの測定も大切な仕事の一つだ。集めたデータとその分析は新製品の開発に直接結びつくため、貴重な資料になる。

 今後も消費者が満足できる品質を届け続けるためには、研究員全体の技術の向上が欠かせない。「みんなで挑戦して失敗しても新たな発見につなげればいい。現状に満足することだけはしたくないですね」

(ライター・浴野朝香)

AERA 2024年4月22日号