上司が部下につい口にしてしまう言葉の中に、実はNGワードが潜んでいる。最新の職場のざんねんな言葉を紹介する。AERA 2024年4月15日号より。
* * *
龍谷大学心理学部教授で、ビジネス心理学やコーチング心理学を専門にする水口政人さんは、こんなNGワードを紹介してくれた。〈それ、前にも言ったよね〉だ。部下から同じ質問を何度もされると、つい口にしてしまうフレーズだが……。
伝え方悪かったと反省
「行動心理学の原理によれば、嫌な思いにつながった行動は、以降の発生頻度が下がる。同様にこんなイヤミを言われて嫌な思いをすれば、部下は次は質問をしに来なくなる可能性が高い。その結果、無理に一人でやってミスをしたり、仕事の効率が悪くなったり、組織にとって何ひとついい結果は生まれません」
このケースでは、何回同じ質問をされても、「何回でも喜んで答える」のが正解となる。
「上司の場合は、何度も聞くなとイヤミを言う前に、自分の伝え方が悪かったのだと反省すべきです。心のメカニズムから言っても、そうして笑顔で対応する上司には、部下はまた質問しに来てくれるはずですから」(水口さん)
よく人にかけてしまう〈大丈夫?〉という言葉も、上司→部下の関係ではNGワード。上司にこう聞かれれば、大丈夫でなくても「大丈夫です」と言ってしまうのが部下だからだ。「今心配なことを、ひとつ私に伝えなきゃいけないとしたら何?」など、どうせ聞くならイエス・ノーで答えられない聞き方をするのがいいという。何にしてもポイントは、相手の理屈を引き出して、それを尊重する言葉を選ぶこと。
「万が一部下と衝突したときも、人の数だけ理屈があって、人の数だけ正解もあることを忘れない。その人の理屈を尊重せずに、強引に論破しようとすれば、言われたほうは嫌悪感しか残りません」
目的持って褒めること
そのためには、「正義より効果」というルールも有効だ。例えば遅刻を繰り返していた部下が、努力して遅刻の回数が減ってきたとき。「正義」を振りかざして〈まだ遅刻しているの?〉と注意するより、「遅刻が減ってきたな。何か工夫しているの?」と変化を認めて、やる気を引き出す「効果」を狙うことが、いい関係を保つ秘訣だ。
「ただし褒める場合は、目的を持って褒めることが重要。ご機嫌取りだけの褒め言葉はすぐに見透かされます。また部下を褒めるときは、結果を褒めるより、その過程にある行動を褒める。結果を褒めても、経験の浅い部下は、何がよかったのかわからないことも多いですから」
例えば「君の企画に専務が感心していたよ」よりも、「納得がいくまで何人もの専門家にヒアリングしたのがこの企画の勝因だね」などと言い換えるのが、効果的な褒め方となるという。(ライター・福光恵)
※AERA 2024年4月15日号より抜粋