そんな沖さんは、20代半ばを過ぎた頃から、ぬいぐるみが遊び相手から「話し相手」に変わったという。
「彼らと喋ると心が整うことに気づきました。つらかったことや悔しいことを伝えると、返ってくる言葉はいつもポジティブ。よし、また頑張ろうと思えるんです」(沖さん)
猫写真家として、全国各地はもちろん台湾など海外も飛び回る日々だが、いつもスーツケースに「推し」を入れていき、現地で励まされているという。最近、iPhoneを新調し、旅のお供がグーグルマップになったために「推し」の出番が減ってはいるが、沖さんは、
「それは僕の心が安定しているからでもあるでしょうね。いつかまた必要とする時は来ると思います」
と話す。
ぬいぐるみの存在に支えられる日々。それは、ある日突然、始まることもあるようだ。
運命的な出会い
関東地方の国立大学の60代の男性教授は約5年前、イタリアのジェノバに行った時に、空き時間にふらりと立ち寄った水族館で“運命の出会い”を果たした。
お土産ショップに並んでいたペンギンを見て、
「ビビビッときました。それまで、ぬいぐるみとは全く縁のない生活をしていて、目にすることがあっても特に何とも思わなかったのに、あの時は迷うことなく買ってしまいました」
と振り返る。
ペンギンは身長約25センチ、日本円で2千〜3千円ほど。「ジェノベーゼ」と名づけて持ち歩き、カフェでパンケーキを食べたり、観光地を訪れたりするたびに写真を撮って、ジェノベーゼ名義のインスタにアップするようになった。キャプションはいつも会話調だ。
(ジェノベーゼ)「池からけむりが出てる!」
(男性教授)「別府の海地獄だよ。98度の温泉なんだって」
かわいがってきたが、一度、フランスの地方にある博物館で、欄干に載せて写真を撮っていたら、下水管に落としてしまったことがあるという。救出は難しく、帰りの飛行機で泣き通した。だから、いま一緒にいるジェノベーゼは、その後、再びジェノバに行った時に購入した2代目だ。男性教授は、しみじみと言う。