「村井は嫌われてもしょうがない、と思っていたんですけど、岡部さんが演じてくれたことで自分が想像していたよりも愛された。ご本人の人柄もあると思います。私もいつも、また作品で岡部さんに会いたくなるんです」

 岡部を岡ちゃん、と呼ぶ山内ケンジもいう。

「岡ちゃんはいい加減そうで憎めない、本気かどうかわからないけど、でも可愛げがある。そういう人なんですよね、本人が。だからそれが役ににじみ出るのかもしれない」

 それにしても岡部のこの1年をみると、俳優にとって売れる、とはどういうことなのかを考えずにいられない。そんな問いに前出の岩谷がこう答えてくれた。

「どんな世界でも『出世したい』『認められたい』という思いはありますよね。それを縦軸だとすると、俳優の仕事は縦軸にではなく、横に進んでいくものだと思うんです。俳優としてうまくなるとか、新しい表現をみつけていくことはその世界の奥に進んでいく仕事で、そこに上とか下はない。あとはそれを外の縦軸の世界にいる人、監督や観客が引っ張るかどうか。それはもう俳優には関係ない話なんです。で、運のいい人は、岡部のように上から引っ張られることもあるわけで」

 岡部は九十九&村松の修業時代に知り合った先輩俳優・吹越満の言葉を思い出すという。

「吹越さんはあんなに有名なのに『俳優は顔と名前が一致してなくていい』って言うんです。『俳優はどこか謎なほうがいい。売れずに売れなきゃダメなんだよ』って。俳優は作品を作っている人に『あいつ、おもろいで』とまた使ってもらうことが大事。だから『売れずに売れる』って。これ相当いい言葉やな、と思うんです」

 いま岡部には、私生活でも相当に「おもろく」なっていることがある。息子の岡部ひろき(22)が自分の背中を追うように俳優になったことだ。ひろきは6歳で父と離れ、母と和歌山に移った。たまに顔を見せる岡部をあまり父親と感じたことはない。中学時代にグレたときにも「それ、おもろいんか。おもろかったらええやん」とのたまう、おかしな親父だった。が、高3にあがる前に城山羊の会の公演を観て、「親父(おやじ)ってこんなにおもしろいことやってんねや!」と開眼した。ひろきは言う。

「『俳優、やろうと思ってる』と言ったときも『おもろかったら、ええんちゃう?』って」

 20年には城山羊の会の公演で同じ舞台に立った。演技のアドバイスをもらうこともあり、いま人生で一番、密に関わっている。

「父親というより、やっぱり役者の先輩です」

 そんな息子を見つめる岡部の目は、いつも以上にやさしく、心底「おもろそう」に輝いていた。(文中敬称略)

(文・中村千晶)

AERA 2023年7月3日号

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