かけっこや鉄棒、マット運動、とび箱などについて、体の使い方やタイミング、コツを具体的に細かく解説する『コツをつかんで苦手を克服! 小学生のための体育基本レッスン』(朝日学生新聞社)。2011年の発行以来、多くの小学生と保護者に支持されている。
走る力を身につける(かけっこ、マラソン)、回転する力を身につける(鉄棒、マット運動)、とぶ力を身につける(とび箱、なわとび、走り幅とび、走り高とび)、投げる・ける力を身につける(ドッジボール、野球、バスケットボール、バレーボール、サッカー)、バランス感覚を身につける(一輪車、竹馬、スキー、スケート、水泳)という5種類のレッスンに運動会・スポーツテストを加え、体育指導のプロが正しい練習法を伝授する。
この本は『朝日小学生新聞』で約6年間にわたり掲載された「みんなで挑戦! 朝小スポーツ塾」の人気コーナーに加筆したものだ。「運動会のかけっこで1番になりたい」「苦手な逆上がりができるようになりたい」。そのような声が数多く届いたことから始まったコーナーだ。回を重ねるごとに「速いボールを投げるにはどうしたらいいか」「サッカーボールのけり方を教えてほしい」などの要望が増え、スポーツ全般の種目に広がっていったという。
■分かりやすく丁寧に指導
「実は、私は小学生の頃までは運動が苦手な方でした。鉄棒の逆上がりもなかなかできなくて、放課後に残された数人の中の一人だったのです。そして、最後まで残ってしまったのが私でした」という、本書の監修者・水口高志さんに話を聞いた。
人によって1回でできる人もいれば、水口さんのように反復練習をしてやっとできる人もいる。なぜ自分だけができないのだろうと、劣等感や孤独感があった。あきらめずに挑戦を繰り返し、ようやく皆に追い付く、そんな自分の特性に気付き始めたという。
中学校1年生くらいになると、徐々に体つきが良くなり、筋力的にもアップしてくるので、それまでできなかったことが少しずつできるようになっていった。小学生のときに苦くつらい思いをしていたものが、できるようになると気持ちまで変わるのだと体験したのだ。やればできるという達成感を感じた時期である。野球部に入部し、体を動かす楽しさ、できる喜びを感じ、高等学校でも野球を続けた。しかし、監督やコーチからの指導を一生懸命に聞き、理解してやろうとしてもなかなか体がついていかないこともある。すると叱られ、萎縮してますますできなくなってしまう。そのような経験も、できるようになった経験もしていく中で、教えるとはどのようなことなのかということに興味を持ち始めた。運動を通して体を動かす楽しさも伝えたいと思うようになり、体育の教師として授業で指導することを志し、体育の専門の大学に進学する。
大学1年生のときのことだ。小学生をもつ親から、体育の個別指導の依頼があった。翌週に授業で逆上がりのテストがあり、親では教えられないので教えてほしいとのことだった。水口さんは、自分が小学生のときになかなかできなかった逆上がりの経験などの記憶が蘇り、その児童の気持ちに共感した。一つひとつの動作を分かりやすく丁寧に指導し、4日目にはできるようになり、テストでも合格した。その児童がきっかけで、友人・知人などに口コミで広がっていった。
■努力して達成感を味わう
いろいろなご両親からのお話を聞いていく中で、水口さんが育ってきた時代の地方の環境と現在の都心の環境が明らかに異なっていることが分かった。ビジネスとして成立するかどうかは別とし、できるところまでやってみようと体育の教師の道ではなく、新たな決心をする。大学にはスポーツ・マネージメントというコースがあったので、そちらに切り替えたのだ。卒業後は、体育の家庭教師を派遣する「スポーティーワン」を設立。現在までに1000人以上の個別指導をしてきた。
この本では、時間的なこともあり学校の授業で教えてもらえないような指導方法・やり方が凝縮されている。親子で一緒に見て、読んでイメージしながら理解を深め、実践してみる。具体的な気付きを発見し、それが自信に変わっていき、その自信が成果として現れてくることもある。子どもの心や技術的なちょっとした変化を見逃さずに褒めてあげる。すると、子どものやる気も変わってくる。親としても、子どもが頑張る姿を応援することは気持ちがよいものだ。
小学生くらいのときに、努力してその達成感を味わうことは、他の教科の勉強にも通じ、それが自信につながっていくのだ。(朝日新聞デジタル &M編集部 加賀見徹)
『sesame』2015年11月号(2015年10月7日発売)より
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17440