そろそろ秋のお彼岸も間近。「暑さ寒さも彼岸まで」というように、朝夕に空気や風の冷たさを感じるようになりましたね。あまり聞きなれないかもしれませんが、本日9月19日は、暦の上では≪社日(しゃにち)≫。春と秋、一年に2回あるという社日ですが、いったいどんな日なのでしょうか? その由来を紐解いてみましょう。

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春は五穀豊穣を祈り、秋は初穂を供え収穫に感謝する、雑節≪社日≫

いつのころからでしょうか。四季が巡る国・日本では、季節の移り変わりをより的確に把握するために、二十四節気や五節句のほかに、「雑節(ざっせつ)」という、季節を区切る特別な歴日がもうけられてきました。
――節分、彼岸、八十八夜、入梅、土用など、これら雑節は、日本人の長い生活体験から生まれ、主に農耕文化に即してつくられたものだとか。農作業の目安ともなり、暮らしに根付く年中行事や土地の風習となっているものが多いようです。農業が経済・文化・信仰の中心であった、いにしえの知恵や精神文化の現れでもあるのでしょう。
その雑節の一つでもある「社日」は、春と秋と年に二回あり、春分の日(3月20日頃)と秋分の日(9月23日頃)にもっとも近い戊(つちのえ)の日。春なら「春社(はるしゃ)」、秋なら「秋社(あきしゃ)」と略して呼ばれます。
暦などにおいて年と日を示す十干(じっかん)の一つ「戊(つちのえ)」は、陰陽五行説では「土」という意味があるとか。農耕民族である日本人の祖先にとって、大地の恵みをもたらす「土」との縁は、とっても深いものがあったようです。

社日の「社」とは、土地の守護神・「産土神(うぶすなかみ)」のこと

「社日」は、土地の神様「産土神」を祀る日。
「春社」では、五穀の種を供えて豊作を祈ります。そして、「秋社」では、収穫された稲の初穂を捧げお礼参りをしていました。
春の社日は種まきの時期にあたり、秋の社日は収穫の時期にあたることから、農業における大事な節目の日とされるようになったのでしょう。もともと「社日」を祝う習慣は中国から渡来したものですが、この風習が日本に伝えられると、土地の神様を信仰する日本の風土と合致し、農耕儀礼として全国に広まったようです。
初穂を捧げる神事は少なくなっているようですが、福岡では海辺へ出て清い海砂を持ち帰り家を清めたり、長野ではをついてお祝いしたり、群馬では大釜に沸かした熱湯に浸した笹を全身に浴びるなど、その土地ごとの神様を祝う行事が様々な形で伝わっています。
ちなみに産土神とは、その土地を生み出した親神的な存在のこと。生まれた赤ちゃんの「お宮参り」など、土地の守り神である神社へお参りするしきたりは、今でも身近に行われていますね。

明日20日は、秋の「彼岸の入り」。新米がおいしい時節です

さて、明日20日は秋の「彼岸の入り」。
昼と夜の時間が同じになる、春分の日と秋分の日をはさんで前後3日ずつを含んだ一週間がお彼岸です。
その最初の日を「彼岸の入り」といい、終わりの日を「彼岸の明け」、春分・秋分の日を「彼岸の中日」といいます。
この「彼岸」もまた雑節の一つなのですが、日本独特の習俗に仏教の行事が結び付いたもので、この期間各寺院では「彼岸会」という仏事が行われます。また、各家々では御萩(春は牡丹餅)、団子などを仏壇に供え、お墓参りをし、ご先祖様を供養します。
芋や栗、カボチャなど秋の味覚や新米も出回り、収穫を祝う秋祭りも各地で行われはじめます。
田圃が黄金色に色づくこの季節。たわわに実り、重くしなだれた稲穂を見れば、私たちの祖先がいかに土に親しみ、自然の力を恐れ敬い、それらと融合しながら生活に取り入れ活かしてきたかを思い起こすことができるでしょう。
神話によれば、天照大御神から「日本人の主食にするように」と授かったという稲。古来、主食の米には神の魂が宿り、新米をいただくことで、神とつながると信じられていたとも聞きます。
そんなお米の種をいつまくか、稲穂をいつ刈り取るかといったタイミングは天候に左右されるうえ死活問題でもあったので、私たち日本人は本来、季節感にとても敏感だったのですね。
そう、「社日」は、そんなことにも思いを馳せることができる、大切な節日。新米をふっくら炊いていただけば、そのみずみずしいおいしさに、改めて瑞穂の実る国に生まれた喜びが心にわきあがってくるかもしれません。

※参考・出典
現代こよみ読み解き事典(柏書房)
しきたりの日本文化(神崎宣武著 角川ソフィア文庫)