テレビに出るようになってからは、事あるごとに浅草の師匠たちのエピソードを披露したりして、世間に知られていない浅草演芸界の実像を浮き彫りにして笑いを取った。

 彼らはどこまでも浅草にこだわり続けた。古臭いイメージがある浅草の演芸界を何とか盛り上げるために、さまざまな手を尽くした。『水曜日のダウンタウン』では、彼らが仕掛け人になったおぼん・こぼんの解散ドッキリや仲直り企画が話題になった。

ナイツが架け橋に

 最近では、同世代の芸人を積極的に漫才協会に勧誘したりしている。浅草の演芸界と若手お笑い界は、ある時期まで完全に断絶していたのだが、ナイツが架け橋となって両者を結びつけた。

 萩本欽一、ビートたけしなど、浅草からは数多くのスター芸人が巣立っていった。だが、彼らはテレビの世界で名をあげた後、浅草に戻ってそこを拠点にして何らかの活動をすることはなかった。

 一方、塙はテレビに出るようになってからも、ひたすら浅草と漫才協会にこだわり続けてきた。そこには崇高な使命感のようなものが感じられる。

 浅草で育った自分たちが、浅草に恩返しをしたい。愛すべき師匠たちの人間的な魅力を多くの人に知ってもらいたい。芸人の活動の拠点である舞台を守りたい。浅草復興に情熱を燃やす漫才協会会長の塙の心の奥にあるのは、そのような純粋な思いなのだろう。

 浅草からテレビや映画の世界に出ていった芸人はいるし、波に乗り切れずに浅草に出戻ってくる芸人もいる。しかし、ナイツの2人だけは、どんなに有名になっても、地位が上がっても、頑なに浅草をベースにして地に足をつけた活動を続けている。

『M-1』に出場した際に「浅草の星」というキャッチコピーをつけられていた彼らは、今では「浅草の太陽」として浅草演芸界全体を明るく照らす存在となっている。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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