「鉄道の存続を真剣に議論する時にきている」
鉄道と街づくりに詳しい国学院大学の大門創(はじめ)准教授(交通計画)はそう指摘する。
日本の鉄道は、鉄道事業者が全てを独立採算で賄うのが原則で、山手線など都市部で稼いだ利益を地方の赤字路線に充てる「内部補助構造」によってネットワークを維持してきた。しかし、そもそも人口減少で鉄道利用者は減少傾向だったのが、コロナ禍で加速した。稼ぐ力が細る中、今までの枠組みでは通用しなくなっている、という。
「例えば収支率0.5%ということは、99.5%は赤字補填(ほてん)していることになります。そうした路線まで内部補助構造によって支えるのは、限界にきています」(大門准教授)
鉄道網途切れると
日本は、全国に鉄道が網の目のように張り巡らされている。現在JR、私鉄を合わせた鉄道の総延長は約2万7千キロと、地球を3分の2周するまでになっている。そのネットワークが途切れると、何をもたらすのか。
大門准教授は、「広域的視点と地域の視点の両方でインパクトが生じる」と言う。
「広域的視点としては、ネットワークが寸断されることによって、利用者は今までは目的地に鉄道だけで行くことができたのができなくなり、車やバスなど別の代替交通手段を使うことになります。その結果、既存の鉄道の収支が下がり、運賃の値上げになることも考えられます。利用者にとっても、移動の選択肢が狭まります」
地域的なインパクトは、高齢者や学生など「交通弱者」に及ぼす影響だ。
「特に地方は、学生が鉄道を使えなくなると通える学校の選択肢が減ります。また学校や塾などの送り迎えを保護者が行うことになり、そうなると保護者の時間が制約され活動が停滞するので、地域の活性化にマイナスの影響を与えることにもなります」(大門准教授)
18年4月、島根と広島を結ぶJR西日本の三江線(さんこうせん、三次-江津(ごうつ)、全長約108キロ)が、利用者の減少が止まらず廃線となり、バスに代替された。廃線から6年近く経ち、沿線に住む40代の女性は、「街も寂しくなった」と嘆く。