作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回はドラマ「不適切にもほどがある!」で考えた80年代と、80年代を代表するテレビ人・久米宏さんの著書から見える80年代の仕事ぶりについて。
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話題のドラマ、宮藤官九郎脚本「不適切にもほどがある!」を観ている。パワハラやセクハラという概念がそもそもない昭和の中学教師が、セクハラやパワハラという概念に振り回されている現代(として描かれている)にタイムスリップし、昭和ならではの “不適切な振る舞い”でポリコレにがんじがらめの現代人(として描かれている)を魅了していく物語である(少なくとも第4回までは)。主人公を演じる阿部サダヲさんはじめ出演する役者たちが芸達者で、ついつい見入り、大笑いしちゃったりもする。でも……なぜだろう、見終わった後に、1980年代を生きてきた者としての古傷が疼くのである。それがとても痛かったりするのである。
宮藤官九郎さんと私は同じ年である。1980年代、日本が世界で一番のお金持ちの国にかけあがっていく、「ルンルン」で、「ギンギラギン」で、「毎度おさわがせします」な賑やかで軽薄な時代に“私たち”(=今の50代前半世代)は10代を過ごした。
ドラマは1986年の設定だ。職員室で教師同士がセクハラ会話で盛り上がり、テレビでは女性たちがおっぱいを出し、エッチな情報番組にティーンが出演している1986年である。ドラマを観ている人にしかわからない話で申し訳ないが、1986年の東京であんなスカート丈のスケバンはいなかったでしょ……とか、1986年にマッチのポスターを部屋に貼っていた女子高生なんていないでしょ……など細かい描写が気になるくらいに、あの時代を生きていた人たちには細部が楽しめるつくりになっている。
そして改めて思うのだ。ああ、あんなキモい時代を、よくまぁ、あの時代の女の子たち(私も含め!)は生き抜いてきたなぁ~、と。
ちょうど、1980年代を代表するテレビ人、久米宏さんがご自身の仕事を回顧する『久米宏です。ニュースステーションはザ・ベストテンだった』(朝日文庫)で、ザ・ベストテンの司会者時代、山口百恵さんの素を引き出すために百恵さんのお尻を触ったくだりを読んでいた。1979年のことである。