人気芸人・ヒコロヒーさんが、短編恋愛小説集を上梓した。いまをサバイブする人々への愛ある突っ込みであふれている。AERA 2024年2月19日号より。
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――Webメディア「かがみよかがみ」で連載していた短編小説18編が、このたび一冊にまとまりました。
ヒコロヒー:連載当初は日常をネタにしたエッセーを書いたのですが、当時の編集長から「恋愛ものを書いてみないか」と言われたのが始まり。文字数も2千字程度と短かったので、「エッセーよりもネタを考えなくていいからいいかな」と軽い気持ちで引き受けました。
――小説を書く時間を捻出するのは大変だったのでは。
ヒコロヒー:そうでもないです。1回分だったら移動中に30分とかで書いていました。
――収録されているのはすべて短編です。2千字程度と文字が少ない分、テーマが明確でないと書くのが難しかったように感じるんですが、テーマはどんな時に思いつくのでしょうか?
ヒコロヒー:締め切りの日に考えつくことがほとんどでした。
恋愛小説は読まない
――よく間に合いましたね。
ヒコロヒー:絞り出す……感じでしょうかね。日常的に「これは小説のネタにしよう」なんて考えたり、メモをとっているとかではまったくなくて「さあ、書くぞ」というときに思いつく感じです。
――影響を受けた作家や作品などはありますか。
ヒコロヒー:それこそ連載当初は「中島みゆきさんの曲をテーマに書いてみよう」と試みているんです。読んでいる人が「あれ? これ中島みゆきの歌をモチーフにしてない?」とぼんやり気がつく程度ですが。でも途中からその設定を私も編集部も忘れてしまい(笑)、以降、思いつくままに書きました。
――お笑いと小説、共通することはありますか。
ヒコロヒー:共通点は、白紙から文字を起こすってことですね。他の人がさわってない島の土地を掘り起こしに行くというか……そういったところは似ていると思います。ただ、お笑い芸人は人を笑わせないといけない。だから一言一言、「どうしたら笑ってもらえるか」を、それはもう真剣に考えます。構成も「笑かす」「笑ってもらいたい」が第一優先です。小説は別に笑ってもらわなくてもいいわけですから、多少気楽です。
――人物描写や情景描写が的確だったのは、一言に意味を込める作業を、芸人として日頃から繰り返されているからなんですね。
ヒコロヒー:「お笑い」というジャンルは無形なんですね。目の前の人に笑ってもらう、という無形のものの積み重ね、繰り返しなんです。今回、連載が一冊の本にまとまって痛感したんですが、小説は本という形になる。「形になる」というのは、お笑いにはなかなかないことで、結構うれしいことだなと気がつきました。もちろん、芸人もDVDとか何かしらの形に残ることはありますが、本になるというのはまた違う喜びでした。
(構成/編集部・工藤早春)
※AERA 2024年2月19日号より抜粋