(c)nondelaico/mizuguchiya film

 山梨県にある障害福祉サービス事業所「みらいファーム」。朝のラジオ体操にはじまり、花を育てる人、コットンを織る人などそれぞれの作業をし、みんなでお昼ご飯を食べる。季節が移ろい、彼らに変化が訪れる──。個性豊かな人々の日常を「東京自転車節」の監督が記録したドキュメンタリー「フジヤマコットントン」。青柳拓監督に本作の見どころを聞いた。

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 前作「東京自転車節」のあと何を撮ろうかと考えて、真っ先に浮かんだのが「みらいファーム」でした。母の職場で僕は幼い頃からよく遊びに行っていたんです。「障害者」という言葉も知らないままそこにいると、みんな自然に僕を受け入れて、兄や姉のように遊んでくれた。僕にとってはただただ楽しくて居心地の良い場所でした。

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 2016年の相模原障害者施設殺傷事件が自分のなかでずっと引っかかっていたことも理由です。植松聖死刑囚は「障害者には生きている価値がない」と考えて犯行に及んだ。社会全体にそういう考えが蔓延している空気を感じてぞわっとしました。「いや、それは違う」と言いたいけれど、でも「どんな命にも価値がある」とかそういう正義すぎることでは伝わらないとも思った。それに僕自身「東京自転車節」でコロナ禍の東京をウーバー配達員として走り回りながら、社会との断絶や孤独を感じ、「もうどうにでもなれ!」と自分の価値を捨てたいと思う瞬間がありました。植松死刑囚のように自分にも人間の価値を測る気持ちがあるんだと気づいたんです。そんなことを考えながら「みらいファーム」に行ったら、幼い頃と変わらない日常が広がっていた。花を育てるのが上手な人、織り物が得意な人、みんなそれぞれに一日のルーティンがあり、それを互いにうまく絡ませながら居心地のいい場所を作り出している。彼らには目の前の人を気づかい、お互いに支え合い関わりあうポジティブなバイブスがある。その関係性をじっと見つめることで、そこにある魅力を映し出せたらと思いました。それは障害に対する偏見を軽く蹴とばせる魅力だと思うんです。

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 こういう場所がある。それをそのまま見せることが、僕のあの事件へのアンサーだと思っています。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年2月12日号

青柳拓(監督)あおやぎ・たく/1993年、山梨県生まれ。日本映画大学の卒業制作「ひいくんのあるく町」が2017年劇場公開。「東京自転車節」(21年)は世界各国の映画祭でも上映。10日から全国順次公開(撮影/写真映像部・和仁貢介)