――音楽活動はリスナーやオーディエンスがいてこそ成り立つ。その関係性をどう捉えているのだろうか。
甲本:僕たちは誰かのために曲を作っているわけでもライブをやっているわけでもありません。お客さんもバンドのためにライブに行くわけじゃなくて、自分が楽しむために行くわけですよね。だからお客さんはお客さんでめいっぱいライブを楽しんでほしいし、僕もめいっぱい楽しんでいます。みんな自分のためなんです。だからこそライブがアナーキーな空間になるのが素晴らしい。お客さんが応援する姿勢だとああいう空間は生まれません。でも応援することが好きな人がいることも知っています。そういう人は自分のために応援すればいいと思うんです。
――最初にバンドを始めてから約40年が経つ。だが、意識して「続けよう」と思ったことは一度もないという。
甲本:僕は子どもの頃から物事を思い通りに進められなかったので、「自分が思い描いていることの50点ぐらいのことをやっていくんだろうな」と思って生きてきました。そして、世の中が思い通りにいかないこともとうの昔に知っています。これだけバンド活動が続けられているのはマーシーと知り合ったおかげ。僕はすぐに怠けるけれど、マーシーはいろいろな局面で深刻に物事を考えてくれて、僕のケツを叩いてくれるんです。
「人生に悔いはない」
――「理想の人生のゴール」と聞いて、どんなことを想像するのだろうか。
甲本:みんなゴールに向かう途中で死んでしまうんじゃないでしょうか。そもそも僕は何も成し遂げる気がないですし。だから普通に歩いている時にプツッと人生が終わるんだと思っています。毎日完璧に過ごせている自信はないですし、「ああすればよかった」「こうすればよかった」という後悔は日々あります。でも反省はしない。人生は後悔の連続だけど、死ぬ時は「俺の人生に悔いはない」と思うような気がしています。
(編集/ライター・小松香里)
※AERA 2024年2月5日号より抜粋