対談後の振り返りで、大宮さんは「隈さんを誤解していた」と書いた。隈さんの建築が多く建てられる理由は「みんなが未来に不安を感じているから、楽しくなりたくて、安心したくて、隈さんに託しているのかな」。

 ピアニストの角野隼斗さん(2018年、工学部卒)は、数学を究めたい、と音大ではなく東大に進学。その選択を振り返り、

「理系だと何か新しいことがないと論文にならない。たぶんピアノ科にずっといたら、今、世界に何がすでに存在して、何がなくて、何をやれば新しくなるのかみたいな思考にはなってなかったんじゃないかな」

 ショパン国際コンクールセミファイナリストでありながら、YouTubeでは「かてぃん」として新しい音楽表現に挑戦し続ける角野さんの思いが詰まった言葉だ。

 シンガー・ソングライターの小椋佳さん(67年、法学部卒)は「創造することが生きている証しだと思っていた」。でも就職先は勧銀(日本勧業銀行、現みずほ銀行)。後ろめたさがあったと言い、卒業コンパのときには「大組織に入るけど、創造的な作業をする人間でい続ける、表現者であり続ける」と宣言したという。

 その言葉通り、銀行員として勤めながら、シンガー・ソングライターとしてデビュー。そのうえ、50歳で、再び東大法学部に学士入学し、2年後に文学部哲学科に入り、3度目の卒業後に、修士課程へ。大宮さんは「組織内のアウトサイダーであり続けるとおっしゃった小椋さんの生き方にしびれた」と振り返った。

AERA 2024年2月5日号

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