プロムナード商店街の「サンタモニカは安全ではない」という垂れ幕(撮影/長野美穂)
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 照りつける太陽にキラキラと輝く海。訪れた人を魅了する米国の観光都市が、著しく「悪化」している。ドラッグに依存するホームレスが急増。ロサンゼルス周辺で、いま何が起こっているのか。現地を取材した。AERA 2024年1月22日号より。

【写真】これが今の西海岸? 街中の至るところに空き店舗、ドアには大穴

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 カリフォルニア州サンタモニカ。真っ青な空と太陽の下、太平洋のビーチが一望できる街だ。

 この街の「プロムナード」と呼ばれる商店街の一角に「Santa Monica IS NOT Safe(サンタモニカは安全ではない)」と印刷された垂れ幕が1年前から掲げられ、注目を集めている。「犯罪、モラルの崩壊、ここは野外のメンタル収容所だ……」という言葉も印刷されていた。

 自らが所有するビルの壁にこの垂れ幕を掲げたのは、リテール店舗を貸し出す不動産業を営む60代のジョン・アレ氏だ。

サンタモニカの治安悪化を警告するジョン・アレ氏(撮影/長野美穂)

どこにでもホームレス

「驚くほど多数のホームレスがこの商店街や公園、駐車場内の階段など、至る所に住み着いている」と語る。「先日は私の店舗ビルの裏で、男性が腕にヘロインを注射していたから警察に通報したし、2軒先のアディダスの店の窓は、ウチの防犯カメラが記録しただけでも5回は割られている。多くの店が毎日、窃盗の被害に遭い、従業員が安心して勤務したり通勤できる状況ではない」と言う。

 アレ氏は「サンタモニカ連合」という非営利団体を立ち上げ、増えるホームレス人口とドラッグ蔓延の現状を行政や住民に訴える活動をしている。

「市の政治家からは、この垂れ幕の文言がレイシスト発言だと非難された。でも自分は現状を伝えたいだけ」とアレ氏。

閉店したフォーエバー21。街中の至る所で空室の店舗が目立つ(撮影/長野美穂)

 アレ氏の店舗と同じ通りには、LAドジャースの店やアップルストアもあるが、プロムナード商店街を実際に歩くと、3分の1以上の店舗が空室で、かつて衣料品店のフォーエバー21が入っていた店舗のガラスドアには大きな穴が開き亀裂もあった。

閉店したフォーエバー21のドアには亀裂と穴が(撮影/長野美穂)

 空室となったレストランの真向かいには民間セキュリティー会社の男性スタッフが座っている。「自分はこのビルのオーナーに雇われている。ホームレスが急増してるから」と言う。

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長野美穂

長野美穂

ロサンゼルスの米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙で記者として約5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社で勤務の際には、中絶問題の記事でミシガン・プレス協会のフィーチャー記事賞を受賞。

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