「吉永小百合というと、皆、自分の中に決まった像があるんですよね。それを完全に壊してしまってはダメ。だけど、そのイメージ通りに撮ると『なんだ、いつもの吉永小百合じゃないか』っていうことになる。写真家として、それはしたくないわけですよ。吉永さんはこっちの気持ちもよくわかってくれて。上手ですよ。そういうふうに演じてくれました」
若手の女優を撮影するときも、同じように試みた。
「読者にこう思ってほしかったんですよ。『俺が思ってる薬師丸ひろ子はこうじゃない! でも……この薬師丸もいいじゃん』と」
作家としての苦悩が実った。
撮影には、ヘアメイキャッパーやスタイリストなど多くのスタッフが参加。スタジオには、メイク道具や衣装などが並べられ、万全の準備が整っている中に、スターが入ってくるのだ。ビートたけしは、「こんな不自然なところで、自然な表情をしろといってもできない」と言ったとか。
他のモデルも、カメラの前で自然な表情を長時間続けるのは難しかった。最初に撮った一枚が掲載されたこともよくあったという。
「安室奈美恵さんのときはスタジオを飛び出して、通りで撮ったんです。『ソフトクリームを売ってるから、それを持って歩いてみて』って。ものの15分もかからないで終わりました。ブローニー(フィルム)で2本だから、20カットも撮ってないですね」
かく撮影したスターの貌は、時代を見事に物語っている。
(構成・文/本誌・菊地武顕)
※週刊朝日 2021年1月15日号