その熱量は、作り手にも伝わっている。「SPY×FAMILY」担当編集の林士平(りんしへい)さん(41)は、
「老若男女、全年代に響く作品と言っていただけるのはうれしいです。小さな子どもから僕自身の親の年代まで含めた4世代に届いているのかなという印象はあります」
「SPY×FAMILY」(遠藤達哉)は、超能力少女のアーニャ、スパイの父親、殺し屋の母親らの「疑似家族」としての生活を描いている。2019年3月に集英社のマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載がスタートするや、同アプリ史上初めて1話でコメント数2千件を超えた。同年7月に発売したコミックス第1巻は発売22日で30万部を突破し、今年12月時点で累計3400万部までに成長している。
何か明確なブレイクのきっかけがあったわけではない。ただ、連載が始まってすぐに「次にくるマンガ大賞」を受賞。その後も数々の賞に選ばれ、その度に部数がふくらんでいったと林さんは振り返る。
「遠藤さんは売れたいと思って売れるタイプの作家ではなく、自分の思い描いた作品を描きたい欲求の強い人。なので、最初の10話分くらいは締め切りを決めずにネームを描きためたんです。連載開始時は特に、遠藤さんが一番思った通りの原稿を描けたんじゃないでしょうか」
少年誌の枠を飛び越え
紙の雑誌の週刊連載と異なり、アプリでの連載は間に合わないときは休載やページを減らす選択もしやすい。それが、世界観や作家の美学に反することない作品づくりにつながっていく。林さんは言う。
「『少年ジャンプ+』はウェブメディアなので、実験場のような場所。『そんなのも載せるんだ』ってくらい、幅広い作品を載せています」
配信サービスの隆盛により、月数千円であらゆるエンタメコンテンツに触れることができるようにもなった。今の少年少女は、かつてより賢くなっていると林さんは感じている。
「作家と打ち合わせをするときも『少年誌だから』というメンタリティーではやっていません。僕たちが想定しているラインをちょっとくらいはみ出しても、大丈夫だという思いで作っています」
その信念が、少年誌の枠を越えて大人にも刺さる作品を生み出している。
(編集部・福井しほ)
※AERA 2023年12月25日号より抜粋