「ヒリヒリするような9月を過ごしたい」など、これまでも勝利に飢える発言をしてきたし、驚きではなかったが、本人の口から改めて聞くと今回の選択は腑に落ちる。
エンゼルスで過ごした6年間で、「現役最高」の地位を確固たるものにした大谷だが、孤軍奮闘も虚しくポストシーズンには一度も出られなかった。自身が目指す「世界一の選手」になるには、ワールドシリーズ制覇は欠かせない。
それを実現するには、ドジャース以上の選択肢はない。ドジャースは11年連続でポストシーズンに進出していて、2020年には優勝している。優れた球団運営で知られ、下部組織にいる若手有望株も充実しているため、契約期間中の継続的な成功も見込める。9年連続でポストシーズンを逃し、下部組織が壊滅的なエンゼルスとは、あまりに対照的だ。
「ドジャースは毎年、95勝する力があって、所属地区には弱いチームも多いので、ほぼ確実にプレーオフに進出できます」と地元紙ロサンゼルス・タイムズでコラムニストを務め、大谷を渡米時から取材しているディラン・ヘルナンデス氏は言う。
「それでいて、プレーオフではヘマをする癖があるので、『大谷がいたから優勝できた』と認めてもらうこともできる」
最終候補に入っていたと言われるトロント・ブルージェイズもドジャースと同じくらいの契約額を提示していた。しかし、ブルージェイズは、強豪がひしめくアメリカン・リーグ東地区に所属し、有望株もドジャースほど充実していない。
大谷にとって優勝が最優先なのは契約の形からも明らかだ。
後払いは、メジャーリーグの大型契約では珍しいことではない。しかし97%の支払いが先延ばしというのは異例だ。ドジャースが浮いたお金で戦力を強化しやすいように大谷自身が提案した。
加えて大谷は、オーナーのマーク・ウォルター氏とアンドリュー・フリードマン編成本部長がいなくなった場合には、自分から契約を破棄することができる条件を盛り込んだ。そこには、編成トップのゼネラルマネージャーが交代したり、オーナーが球団売却を示唆したりというエンゼルスでの経験も影響しているのかもしれない。
勝つために最も重要なのは、幹部から選手、スタッフに至るまで、組織の全員が同じ方向を向いていることだと大谷は述べた。大谷は経営陣のビジョンに共感して入団を決めたのだから、それが途中で変わってしまったら「話が違う」ということだろう。