東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 さすがに腐敗がすぎるのではないか。いま話題の自民党裏金問題だ。

 自民党各派閥がパーティー券収入の一部を所属議員に還流させ、政治資金収支報告書に記載されない隠し資金を作っていたという疑惑が出ている。最大派閥の安倍派では、2022年までの5年間で1億円以上の裏金が作られていたという。

 事実であれば政権与党が組織ぐるみで堂々と脱税していたようなもので、事務的な記載漏れで許される話ではない。政権がひっくり返ってもおかしくない大事件だ。

 問題発覚後、安倍派の塩谷立議員は資金還流の存在をあっさり認めメディアを驚かせた(のちに撤回)。そこから透けて見えるのは、党内で裏金作りが慣習化し罪の意識すらなかったという実態だ。東京地検特捜部はすでに議員秘書の任意聴取を始めているという。会計担当者の逮捕などでお茶を濁されないことを望む。

 しかし不安もよぎる。深刻な事件のわりに政権に危機感がない。岸田首相も松野官房長官も他人事のようなコメントを発するばかりだ。

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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