「たとえば野田さんは、深いテーマを扱いながら、あふれる言葉や遊びの多さで劇を楽しく成立させておられる。宝塚というエンタメの世界からまた一歩踏み出す際に、その作劇法はとても参考になりました。野田さんに限らず、どの方も『どうしたらお客さまに劇場まで足を運んでいただけるか』という舞台の根本を忘れないでいる。だからこそ、長い間、先頭に立っていられるんだな、と実感しましたね」
歌劇団在籍中は、芝居、歌、ダンスの三拍子が揃った実力派として刮目されていた。ロベスピエールやベートーヴェンなど、陰影をまとった歴史上の人物もエンタメの中で説得力とともに演じ切るところが、望海さんの真骨頂だった。
来年はフランス中世史で屈指の悪女とされる王妃、イザボー・ド・バヴィエールを描くミュージカル「イザボー」に主演する。
「どんな悪人でも、なぜ、そのような人生に行き着いたか、ということに興味が湧くんですね。今、世の中では戦争や感染症の流行など、つらいことがたくさん起こっています。それでも生き抜いていく力強さが、人間にはある。それを信じて舞台に立っている自分がいます」
本には望海さんのポートレートも多数。表現に賭ける思いとともに、望海さんの素敵さが詰まった一冊だ。
(ジャーナリスト・清野由美)
※AERA 2023年11月20日号