与論島には、以前、島で唯一の在宅療養支援診療所があったのですが、2年以上前に閉院してから在宅医療が提供できなくなり、それに伴い看護や介護などの在宅ケアの機能も低下していました。でも、私たちが診療所を開設してからは訪問看護ステーションが2つ開設し、これまであまり在宅医療に積極的ではなかった病院でも本格的に在宅医療が開始されるなど、地域の在宅医療提供体制が整ってきました。

 離島の在宅医療では人材が限られているので、職種に関わらず、その時に動ける人が動かざるを得ない大変さがありますが、人材が少ない分、自然と連携が強まるメリットもあります。一方、都市部では医師もスタッフも大勢いて資源は潤沢ですが、その分、連携体制が複雑になるデメリットもあると感じています。

医療法人社団悠翔会理事長・診療部長の佐々木淳医師 写真/上田泰世(写真映像部)

在宅医療は量から質の時代へ

長尾 ポストコロナという言葉も使われますが、コロナ禍以降、在宅医療はどのように変わったと考えていますか?

佐々木 コロナ禍による変化は2つあると思っていて、1つは患者さんの意識。「コロナにかかったらどうするか」という問いを誰もが一度はしたはずで、病院でできること、できないこと、自宅でできること、できないこと、さまざまな選択肢や優先順位を考えたと思います。それまでは、病気になったら病院に行くことが当たり前だったけれど、行けないことが増えて、でも考えてみたら、実は病院でしかできないことはそんなにないんじゃないか、むしろ自宅でできることも意外とあるんじゃないか。そういう発想に変わってきたように思います。例えばがんの患者さんなどで、病院にいて家族と会えなくなるなら家で過ごしたいと退院を希望する人が増えた時期もありました。

長尾 コロナが在宅医療を加速させた、ということになるのでしょうか。

佐々木 病院の役割とか、在宅という選択について意識した人は少なからずいたと思います。そして、もう1つの変化が在宅医療を提供する側の意識。以前の在宅医療は、病状が安定している人を定期的に診療し、病状が悪化したら入院するという形が主でしたが、コロナ禍では肺炎になっても入院できずに在宅で診ることが増え、逆にいえば在宅で対応できるケースも多いことがわかりました。それによって、誤嚥性肺炎や尿路感染症など、これまで入院していたケースでも在宅で診られるのではないかという発想が出てきたのです。

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急性期に特化した在宅医療の潜在的なニーズは大きい