実際に、ヨーロッパなどでは、感染症など急性期疾患に対して入院治療と同様の医療を在宅でおこなう「在宅入院」という制度があります。日本でも急性期に特化した在宅医療の潜在的なニーズは大きく、とくに入院すると体力が低下してしまう高齢者の治療の選択肢として、また医療コストの面でも、非常に有用と考えています。

長尾 これまで、日本の在宅医療は慢性期の、どちらかというと医療よりケアが中心でしたが、急性期の在宅医療が可能になれば、在宅医療の必要性をより高めることにもつながりますし、今後、若い世代に在宅医療をがんばってもらうためにも意義は大きいと思いますね。これから在宅医療は量から質の時代へ変化していくとも言われていますが、最後に、今後の在宅医療についてのお考えを聞かせてください。

長尾和宏医師 写真/上田泰世(写真映像部)

佐々木 今、訪問診療は月2回というのが一般的ですが、それは診療所の収入的な理由によるところが大きい。しかし医療財源や患者さんの自己負担などを考慮すると、今後はより少ない支出で高い成果を上げる努力が必要になると考えます。当会でも、老年症候群や安定しているがん患者さんなどには、医師の訪問診療を月1回にすることをおすすめしています。医師の訪問は月1回でも看護師が頻回に訪問することで、問題があればすぐ対応できますし、実際に月1回でも急変や入院が増えたというデータは少なく、むしろ多職種で連携してしっかり患者さんをケアできる体制があれば、入院や急変を減らすことができます。

 私たちがおこなった別の研究でも、診療訪問の回数が入院や急変を増やす要因にはならないという結果が得られています。医師の訪問を月1回にして、その代わり優秀な看護師がしっかり入り、ヘルパーさんたちと情報共有してくれるほうが、コスト的にも、患者さんの生活の質においても有用ではないでしょうか。今後は、月1回の訪問診療という選択も増えていくと考えています。

長尾 お話を聞いて、先生は在宅医療を牽引する立場であるだけでなく、社会保障や医療政策の観点からも在宅医療を考えていることがよくわかりました。若い医師たちのリーダーとして、今後も活躍されることを期待しています。今日はありがとうございました。

(構成/出村真理子)

長尾和宏医師が監修した週刊朝日ムック『さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん2024年版 在宅医療ガイド』

※週刊朝日ムック『さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん2024年版 在宅医療ガイド』より