イスラエル軍はガザへの地上侵攻が迫り、中東情勢が一段と緊迫化している。ガザ紛争は今後どうなるのか。中東の軍事衝突の核心を、戦史・紛争史を多面的に分析する研究家・山崎雅弘氏に聞いた。AERA 2023年11月6日号より。
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──この軍事衝突が収束したとして、イスラエルとパレスチナの憎しみの連鎖はなくなるのでしょうか。
08年と14年のガザ紛争と同様、イスラエルの航空攻撃と地上侵攻でハマスの戦闘力は一時的に無力化されるでしょうが、ガザ地区の住民が理不尽な境遇に置かれ続ける限り、その不満と憤りはイスラエルへの恨みを生み続けます。つまりイスラエルが武力行使で勝利しても、平和を勝ち取ることは不可能です。
──しかしその結果、犠牲になるのは何の罪もない大人や子どもたちです。
その通りです。今回、イスラエル側でも甚大な死傷者が発生して人質まで取られたことで、国内世論も今までとは違った方向に変化する可能性があります。パレスチナに対するネタニヤフ政権の強硬姿勢は本当に正しかったのか、むしろ長期的にはイスラエル国民の安全を脅かす結果をもたらしているのではないか、と。実際、国内や海外のユダヤ人の間で、結果的に大勢の子どもを殺しているガザへの報復攻撃を非人道的だとして非難する動きが出ています。
──この衝突を収束させるには、イスラエルを全面的に支持するアメリカの出方が鍵になると思います。
アメリカのバイデン政権は、今回もイスラエル側に立つ姿勢を示し、国連安全保障理事会では戦闘の一時停止を求める決議案に拒否権を行使してネタニヤフ政権を援護しました。しかし、こうした行動は、アラブ諸国の間で再び反米感情を高める結果へと結びつきかねません。
──01年9月11日に起きた、アメリカ同時多発テロ(9.11)を思い出します。
アメリカ政府が対応を誤れば、再び反米テロが世界で起きる時代に戻るかもしれません。9.11の首謀者とされた、国際テロ組織アルカイダのオサマ・ビンラディンは、1998年に出した反米闘争を開始する声明で、パレスチナ問題に言及しました。アメリカが、パレスチナのアラブ人を弾圧するイスラエルに肩入れすることは、反米テロ組織の主張に説得力を与えます。