さらに雇用関係のない個人タクシー事業者に対して、どこまで運行管理の実効性を担保できるか、という課題もある。
「例えば、地元のタクシー会社が車両5台で営業して、売り上げもギリギリだったとします。そこへ個人タクシーがやってくれば、その面倒をみなければならないわけです。1台当たりの客が減って、売り上げも落ちる。運行管理を引き受けてほしいと言われても、タダでとはいかないでしょう」
と櫻井さんは厳しい見方を示す。
協会は6年ほど前、個人タクシーのドライバーを対象に「定年で廃業するときに、どこか違う場所で営業できるとしたら、あなたは行きますか」というアンケートを実施した。
その結果には、「暖かい地域に行きたい」「魚が好きなので海のそばがいい」「過疎地域に行って、住民のお手伝いをしたい」という回答もあったが、それはごくわずかだった。地方でタクシー事業だけで「食べていく」のは、現実的には難しいのだという。
櫻井さんは、こう指摘する。
「そもそも、採算がとれずに大手のタクシー会社が撤退した『事業困難地域』に、個人タクシーが行くわけです。車両を維持するにはさまざまな費用がかかります。1日1万円も稼げないような場所であれば、自治体から助成があるとか、空き家を提供してくれるとか、そういった支援がなければ、別な仕事を持たないと暮せないですよ」
過疎地域での「足」を確保しようという国の思惑を、当のタクシードライバーたちはシビアに見ている。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)