10月10日、パレスチナ自治区へのイスラエルの空襲後、破壊された建物の瓦礫の中を歩くパレスチナの子どもたち(写真:アフロ)
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 パレスチナのイスラム組織ハマスが大規模な越境攻撃を仕掛け、イスラエルが報復──。緊迫するガザ情勢に世界中の注目が集まる。その背景や影響は。AERA2023年10月23日号より。

【写真】ガザからイスラエルに向けて発射されたロケット

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 防弾チョッキを着た若者が自動小銃を連射しながら血だらけのシャツの若者を連行する。すぐ近くでは銃を持った若者が乗用車の横で倒れて足を動かしている男性に向けて銃を2度、3度と撃って、走り去る。

 この場面は10月7日、米PBSテレビで放送された、パレスチナ自治区ガザを拠点とするパレスチナのイスラム組織ハマスの武装メンバーがイスラエル南部で開かれていた音楽イベントを襲撃するシーンだ。

 このイベントは前日金曜夕から夜を徹して行われて数千人が参加していた。7日午前6時過ぎに襲撃が始まり、260人が殺害され、かなりの人数が連行された。

 襲撃の時、近くのやぶの中に逃げて7時間隠れていたという若者は、兄弟を殺害されたと語る。政府の予備役の招集に応じると語り、「復讐しなければならない。ガザという地名は地図から消えるだろう」と語った。

「地球上から抹殺」

 イスラエルは12日、イスラエル国内の死者は1200人、連行された人質は100人から150人と発表した。1千人を超えるハマス戦士による越境攻撃について、イスラエルメディアには、50年前の1973年10月6日の第4次中東戦争の緒戦の敗北に例える論調が出ている。エジプト軍がスエズ運河を渡って奇襲をかけ、当時、イスラエル政府は核兵器の使用を検討したとされる最大の危機だった。

 今回、ハマスの大規模な越境攻撃を、イスラエルの情報機関が察知できなかったことは、国の治安対策を最重要課題とするイスラエルにとっては重大な失態である。

 ガザは41キロの海岸線に沿った6キロから12キロの幅の細長い地域であり、「天井のない監獄」と呼ばれる。2007年以来、イスラム組織ハマスが支配すると、イスラエルは経済封鎖してきた。ハマスは繰り返しイスラエル側にロケットを撃ち、イスラエルはF16戦闘機や高性能ミサイルによる大規模な空爆や地上軍の侵攻でたたき返した。十倍返し的な武力行使で2008年以来4回の「ガザ戦争」が行われた。

 最大の14年の戦争は50日間続き、パレスチナ側で2300人の死者が出て、その7割は民間人だった。イスラエル側の死者は兵士67人、民間人6人の計73人で、一方的な戦争だった。

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