10月10日、ガザからイスラエルに向けてロケットが発射された(写真:アフロ)

 イスラエルにとってハマスは治安を乱す存在とはいえ、軍事的な脅威ではなかった。ところが、今回、ハマスは封鎖の壁を越えて、イスラエル国民を攻撃し、1200人の殺害という、米国の「9・11同時多発テロ」並みの衝撃を与えた。

 ネタニヤフ首相は正式に宣戦布告をし、「ハマスを地球上から抹殺する」と報復を誓った。すでに36万人の予備役を招集し、近く「総攻撃」をかけ、地上部隊の侵攻も時間の問題という。

 今回のガザ戦争ではおびただしい市民が犠牲になることは必至で、ジェノサイド(大量虐殺)になりかねない。

増える民衆の犠牲

 民衆の犠牲が増える要因はいくつかある。ガザは細長い地域に、230万人の人口が住む人口密集地である。その上、年齢中央値は世界最年少の18歳であり、人口の半分が子どもという脆弱な社会構成である。イスラエルの大規模な空爆を受ければ、家族は大勢の子どもを引き連れて逃げなければならず、子どもの死亡が増える。

 そのうえ、ハマスの軍事部門は、ガザでは「秘密の部隊」で、拠点や幹部の居所、武装メンバーは住民でさえ知らない。

 私はガザの武装リーダーでイスラエルの暗殺リスト上位の人物にインタビューしたことがある。一戸建ての個人の家の一室で会ったが、毎日寝る場所を変え、家族とは月に1、2回会うだけと潜伏生活の様子を語った。そのリーダーは結局、イスラエルの暗殺作戦で死んだ。

 イスラエル軍は日常的なガザの通信傍受やスパイ情報で、ハマスの軍事部門の秘密の拠点や幹部の居所を知って攻撃するかもしれない。しかし、攻撃されたビルやその周辺の住民はイスラエルが何を標的としているか全く知らずに、巻き添えになってしまう。

(中東ジャーナリスト・川上泰徳)

AERA 2023年10月23日号より抜粋

暮らしとモノ班 for promotion
「集中できる環境」整っていますか?子どもの勉強、テレワークにも役立つ環境づくりのコツ