『RIDING WITH THE KING』B.B. KING & ERIC CLAPTON
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 初のフル・ブルース・アルバム『フロム・ザ・クレイドル』、内省的な歌詞にこだわり、実験的な録音手法やビートにも挑戦した『ピルグリム』。いわば長年の懸案事項をクリアし、大きな手応えも感じたクラプトンは、このあと、アンティグァ島に建てた更生施設クロスローズ・ギター・センターへの取り組みを本格化させていく。1999年6月にはその運営資金確保のためのギター・オークションをクリスティーズに依頼。『レイラ』で弾いた56年製ストラトキャスター(ブラウニー)などを手放している。また同時期、ほぼ30歳下の女性と出会い、真剣に向きあうようになったことも大きな出来事だった。

 やるべきことはやり終えた。本物の家庭も築くこともできそうだ。あとはもう、楽しんで音楽をやればいい。そんなふうに思ったのではないだろうか。すでにこの時点で、何人かの先輩や旧友とのプロジェクトも視野に入っていたはず。大げさないい方をすると、ミレニアムというとても大きな時代の転換点で彼は、音楽に対峙する姿勢や人生観を少し修正することとなったのだ。

 その第一歩が、2000年6月に発表された『ライディング・ウィズ・ザ・キング』。65年に聴いた『ライヴ・アット・ザ・リーガル』で強い衝撃を受け、67年の渡米時にはじめて一緒にギターを弾いて以来、さまざまな形で交流を重ねてきたブルースの生きた伝説(残念ながら、当時は)B.B.キングとの共演アルバムだ(このとき、B.B.は74歳、クラプトンは55歳)。企画やミュージシャン/スタッフの手配は、いうまでもなくクラプトン側によるものだが、アーティスト名義は、B.B.キング&エリック・クラプトン。弟子がハンドルを握り、師匠が後部座席で寛いでいるといったイメージのジャケットなど、すべての面からクラプトンの深い敬愛の念が伝わってきた。もちろん、あくまでも楽しみながら、ということだ。

 セッションに参加したのは、スティーヴ・ガッド、ネイザン・イースト、ジョー・サンプル(クルセイダーズ)、アンディ・フェアウェザー・ロウ、ジミー・ヴォーンなど。ここでもサイモン・クライミーが共同プロデューサーとして働き、『ピルグリム』とは異なる、空間を生かした感じのサウンドづくりでもいい仕事をしている。

 オープニングを飾るタイトル曲は、ジョン・ハイアットのカヴァー。オリジナルは83年の作だが、若干歌詞を変え(ハイアットも協力したらしい)、コンセプトにぴったりの曲に仕上げている。収録曲はほかに、古典的名曲《キー・トゥ・ザ・ハイウェイ》、B.B.のオリジナルから《テン・ロング・イヤーズ》、サム&デイヴの《ホールド・オン・アイム・カミング》、スタンダードの《カム・レイン・オア・カム・シャイン》など12曲。

 おそらくジミー・ヴォーンに推薦されたのだと思うが、オースティン出身のアーティスト、ドイル・ブラムホールⅡの作品も2曲取り上げられていた。オースティンの出身で、ジミ・ヘンドリックスやスティーヴィー・レイ・ヴォーンの流れを汲む左利きのギタリストは、このあと、クラプトンの重要なクリエイティヴ・パートナーとして働いていくこととなる。[次回6/10(水)更新予定]

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