煩わしいのは自分のエゴと目先の欲(イラスト:サヲリブラウン)
この記事の写真をすべて見る

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

 *  *  *

 ようやく、よぉーーーやく東京にも秋らしい日がやってきました。

 まだ秋の初めですし、このあと再び30度超えの日が来ると週間天気予報は伝えていたけれど、それでも構いません。私は「おかえりなさい!」と両手を広げて秋を抱きしめたい気持ちでいっぱいです。建物から外に出ても汗ばまず、見上げれば高い空、大きく吸い込めば熱くも湿ってもいない空気。最高です。どれほどこれを待ち望んだことか。

 早速、ドン・キホーテで焼き芋を購入。お行儀が悪いのは承知ながら、我慢できずに食べながら歩きました。ウォーキングができる気温になったからには歩かないと。道行く人の顔もおだやかで、前方から前かがみのまま歩いてくる人がいたので目を凝らすと、銀杏を拾っていました。そうか、匂いがするものね。

 いやあ、本当に良い季節。秋花粉に悩まされることがない私は、春より秋を好みます。秋には煩わしいことがひとつもありません。

 この「煩わしいことがひとつもない状態」、実は生活する上で最も大切なことのひとつだと思います。生きる指針が異なる他者との共存が大前提の社会で暮らす限り、現実にはかなり難しいことです。不愉快なことはひとつかふたつ残ってしまう。だからこそ、季節には味方でいてほしい。

著者プロフィールを見る
ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

ジェーン・スーの記事一覧はこちら
次のページ