いじめ通報アプリ「スタンドバイ」の画面。アイコンをタップすると左の画面が現れ、真ん中の「報告・相談」をタップすると右のメッセージ画面が出てくる。動画や写真も送ることができる(撮影/神田憲行)

 導入した側の感想はどうか。三重県の四日市市教育委員会は昨年4月から導入して、「二つの大きな驚きがあった」と担当者は明かす。

 アプリをインストールしているのは市内の公立校に通う小学校5年生から中学3年生までの約1万3千人。導入初年度、想定の10倍以上の1543件の相談が寄せられた。

「内容もいじめ相談が多いだろうと予想していたんですが、『私は必要とされていない』『劣等感が強い』など心身の健康に関するものがもっとも多くて、30%ぐらいありました。その次が友人関係のトラブル、いじめ相談でした」(担当者)

周囲に相談できない子の貴重なツールに

 相談が来ると、できるだけその日のうちに1回はチャットで返信する。

「まず、相談してきた子の目的を整理してあげる。具体的な解決策を一緒に考えるか、身近な人に相談した方がよい場合は、伝え方を考える。『ただ吐き出すだけでも嬉しい』という子もいるので、そんなときは『明日もチャットしようね』と、とことん聞きます」

 対話を重ねていくと、深刻なケースで外部機関と連携した場合を除いて、相談者が自ら解決に至ることも。担当者に強い印象を残した相談もあった。

「きょうだいが学校に行くのがつらそうで、自分はどうしたらいいですか、というものでした。外見も振る舞いも子どもに見えて、子どもは急激に成長していくとわかりました。とにかく自分がモヤモヤすることはどんどん相談してほしいですね」

 神奈川県大和市は18年度から導入。今年度は8月までのべ208件の相談があった。

「命に関わる相談で、支援することができたケースもあります。近くの人に相談できない子どもにとって貴重なツールだと思います」(担当者)

 谷山さんによると、他にも、性同一性に関する相談や部活の顧問の暴言などハラスメントの相談などもある。スマホの小さなメッセージ欄だが、まさに学校の「今」が詰め込まれている。谷山さんは今、いじめ対策の出張授業など、いじめの解決ではなく防止にも取り組んでいる。

「小学生のときに担任の先生に救われて、たった一人の誰かに大切に思われるだけで生きていこうと思えることがわかりました。その起業の根本は今も変わらないですね」

(フリーライター・神田憲行)

AERA 2023年10月2日号より抜粋

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