
「ワグネル」は実質解体
2人ともプリゴジン氏の側近で、米国による資産凍結などの制裁対象になっている。つまり今回の事件で、ワグネルはトップ3を一気に失ったことになる。
仮に「ワグネル」の看板が残ったとしても、これまでとはまったく異なる組織に生まれ変わることになるだろう。そしてそれこそが、今回の事件を起こした者の動機ではないだろうか。
軍を批判して反乱を起こし、政権の権威を傷つけるようなワグネルは姿を消すだろう。
今回の事件の直前、プリゴジン氏らはアフリカを訪れていた。英国の調査報道グループによると、西アフリカのマリで、地下資源などの利権をGRUに引き継ぐための交渉をしていたという。そんなビジネス面の存在感も失うことになりそうだ。
ではプーチン氏にとって、ワグネルの解体は、権力基盤の盤石化を意味するのだろうか。
短期的にはそうかもしれない。しかし、今回のできごとはプーチン氏の心の奥底に、消しがたいしこりを残すのではないか。
事件の真相がどうあれ、旧知の友人だったプリゴジン氏が悲劇的な死を遂げた原因は、本来非合法の民間軍事会社を委ね、さらにウクライナでの作戦に従事させるというプーチン氏自身の決断だからだ。
自分が大統領になるなど夢にも思っていなかった頃からの友人を死なせたことが、独裁者プーチン氏の孤独をいっそう深めたことは間違いない。そんなプーチン氏に冷静な判断を期待することはますます難しくなっているのではないだろうか。(朝日新聞論説委員・駒木明義)
※AERA 2023年9月11日号より抜粋