8月27日、モスクワ中心部の赤の広場に近い教会の前に、エフゲニー・プリゴジン氏の写真が花とともに飾られていた
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 8月23日、「ワグネル」代表のエフゲニー・プリゴジン氏が飛行機墜落により死亡した。今回の事件は偶発的な事故とは考えにくいという。AERA 2023年9月11日号から。

【写真】8月24日、プーチン氏は2分余りにわたり、プリゴジン氏を悼むコメントを公表した

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 私自身、プーチン氏とプリゴジン氏との深くて長い関係を考えれば、直ちに命を奪うことは避けるだろうと考えていた。従って今回の事件は、私の予想を裏切るできごとであり、その意味でも大きな衝撃だった。

 プリゴジン氏とワグネルの幹部が搭乗したビジネスジェットが墜落した今回の事件が、偶発的な事故だったとは考えにくい。

 ウクライナの特殊部隊やロシア国内の反政権グループの犯行という可能性も考えられなくはないが、もしもそうした気配があったなら、ロシアの政府系メディアは大々的にそうした説を流していたはずだ。実際、プーチン政権に近い政治評論家の一人は事件当日にウクライナ犯行説を唱えたが、その後は沈黙に転じた。この件については軽々しい発言を慎んだ方が良いということに気がついたのだろう。

 消去法で考えると、やはり連邦保安局(FSB)やロシア軍の参謀本部情報総局(GRU)といったロシアの特殊部隊が関与した疑いが強まる。その場合、プーチン氏の承認なく実行できる計画ではない。つまり、プーチン氏は自らの友人を消去することを認めた可能性が高いのだ。

 ではなぜ、このタイミングだったのだろうか。

 一つのヒントになるのが、プリゴジン氏と共に搭乗していたワグネルの幹部、ウトキン氏とチェカロフ氏の存在だ。

 ウトキン氏はワグネルの生みの親といってもよい大物だ。GRUの将校出身で、退役後にシリアなどで雇い兵部隊を率いた経験を持つ。

 そもそも「ワグネル」という組織名自体、ウトキン氏のかつてのコードネームだった。ネオナチ思想に傾倒していたウトキン氏は、ヒトラーが愛した作曲家リヒャルト・ワーグナーの名をコードネームに選んだとされる。「ワグネル」はワーグナーのロシア語での発音だ。

 軍事の素人のプリゴジン氏に代わって、実際にワグネルの部隊の指揮をとっていたのがウトキン氏だ。

 軍事部門のトップを務めていたウトキン氏に対して、チェカロフ氏は、ビジネス部門のトップだ。兵器の調達やアフリカの資源利権などを仕切っていたと見られている。

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