被害が近隣諸国や太平洋の島嶼(とうしょ)にまで及びかねない以上、様々な利害関係者の多層的なラウンドテーブルを日本政府の肝煎りで開催し、自然生態系にダメージを与えず、内外の利害関係者も一定の理解を得られるような合意形成のプロセスは不可欠です。個人的には出来るだけ早く、処理水の「固体化」の作業を進め、固体化で体積が増大しても福島第二原発構内をはじめ第一原発近くの場所に管理する、第一原発構内のタンクが限界であるというなら、第二原発構内を差し当たりの保管場所にするといった案もいいと思います。そうしたアイデアも含めてラウンドテーブルで妙案を募る作業が必要です。
地震大国・日本は、30年以内に巨大地震に見舞われる可能性が高いと言われて、被害の規模と形状によっては近隣諸国の援助が必要でしょう。また四川地震では日本のレスキューが活躍し、東日本大震災では中国からの救援物資やレスキューもあったように、緊急事態における相互援助の歴史が共有されています。議論の本位を定め、ナショナリズムに逃れてしまうような愚行は避けなければなりません。
◎姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
※AERA 2023年9月11日号